Interview with a leading creator vol.19

2015.01.09

クリエイターインタビュー

Interview with a leading creator vol.19

Interview with a leading creator vol.19
Pietro Galimberti/FLEXFORM CEO
トップクリエイター・インタビュー vol.19

ピエトロ・ガリンベルティ(フレックスフォルムCEO



今回のゲストは、フレックスフォルム社を率いるピエトロ・ガリンベルティさん。ミラノの『ブルガリ・ホテル』やフィレンツェのフェラガモが経営する『ギャラリーホテル・アート』など一流のクライアントを持つイタリアのモダン家具メーカーの創業者であり、現役のオーナー社長でもある氏に、お話を伺いました。



----まず、フレックスフォルムという家具ブランドについて、簡単にご説明願えますか?


フレックスフォルムは伝統ある家具メーカーで、1970年に創業し、その後何度も改革を重ねながら成長してきました。さまざまな試みの中で正解だったのは、市場のターゲットを中産階級から上流階級に絞り込んできたことでしょうか。今の経済状況の中では、ほぼ富裕層に限られてきていますね。



----興味深いのは、生産の拠点を、創業の地であるイタリア北部ロンバルディア州のメーダという小さな町の工場にこだわり続けていることです。世界中にショールームを持つ今、例えば中国に新工場を設けるなど、海外に生産の場を増やそうと試みたことはないのでしょうか?


いやいや、それは無理です。ひとつには、フレックスフォルムは何よりも質の高さにこだわっているからです。世界中どこででも作ることができるような大量生産品には、まったく関心がないわけです。それにメーダは、伝統的にものづくり、特に家具づくりの伝統を持つ町です。最初は小さな工房ばかりの寄せ集めのような地域だったのですが、工業化の時代にそれぞれの職人たちの力を結集していくことで新たな展開をし、よりクリエイティブな世界が生まれた。だから、この町には技術の集積がある。例えばなぜ、高級時計といえばスイスにばかりに集中しているのでしょう? あれも同じことで、スイスには高い技術の集積という遺産があるからです。

実際、私は世界中をあちこち見てまわりましたよ。もしかしたら可能性があるかどうかを見極めたく、中国の工場などもね。けれども無理でした。私たちは地元で、木や革の加工をする。テキスタイルにもこだわる。それぞれが職人たちの高い技術の賜物ですが、必要なのはそれだけではないのです。それらが組み合わさった時に生まれる雰囲気、美しさ、世界観、そういったものを共有できる文化がなければ、我が社の製品は生まれないのです。


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----フレックスフォルム社のユニークな点はもうひとつ、すでに40年もの間、アントニオ・チッテリオというたった一人のデザイナーを総合監督として据え続けている点ですね。例えば、人気のソファー「グランドピース」(2001年)は、まるでベッドのように座椅子が低く、ゆったりとしていながら、耐久性や加工性に優れたポリウレタンやダクロンといった素材を駆使し、空間に合わせてパーツの組み合わせも自在となっています。ソファーもベッドも椅子も、すべて布や革、椅子の木材まで自由にフレキシブルなフォルムにオーダ―できる。社名の意味は、そういうことですね?


フレキシブルということ。我が社のものづくりは、ちょうど、スーツのス・ミズーラ(仕立て)の世界によく似ています。インテリアの分野におけるス・ミズーラ。素材や組み合わせは、どんな風にでも柔軟に要望に応えることができます。

けれども、デザインはいたってシンプル。というより、結果的にシンプルになっていくのです。仕立てていく段階で、詰め物や細部に、細心の心遣いをする。とても手はかかっているのだけれど、そこに心地よさ、美しさを求めていくと、無数の手がかかっていることを感じさせないようなシンプルなデザインに行きつく。うんと複雑なものを作るよりも、本当はシンプルなものを作ることの方がずっと難しいんですよ。



----日本では、どんな商品が人気なのでしょうか?


私はね、個々の商品を売っている、というつもりは毛頭ないんです。だから1つのソファー、1つのテーブルだけを取りあげて、我が社の話をしたくはない。ならば、何を売っているのか。敢えて言うならば、それはフレックスフォルムの世界観です。

その調和、その静謐なエレガンス、落ち着きある美といったものを売っているのです。ですから、大量に売る必要もないし、できもしないのです。現在は80か国で販売していますが、そんなこともあって、一般消費者向けの小売りの割合はあまり多くありません。ほとんどは、企業から建設計画と同時に相談を受けます。ホテルの内装も、その中に含まれています。そこでは常にフレックスフォルムの世界観を売るわけですから、そのコンセプトを納得して、受け入れて頂けたならば、別にソファーは置きたくないと言われたところで平気なのです。



----話題が変わりますが、日本へは、これまで何度くらいいらしてますか? そして、日本のデザインや職人のものづくりにはどんな印象をお持ちでしょう?


日本へは、この青山のショールームを作る相談を始めた7年ほど前から、毎年1回は通っています。もっとも最初に市場調査のために来たのは、25年前のことですが。私はいろんな国へ行くけれど、日本は特に好きな国ですね。教育の行き届いた礼儀正しい国民性、それに何を食べても美味しい。何だっけ、ウナギ! それにしゃぶしゃぶ! 私は何でも食べますよ。日本へ行くと言うと、知人たちは、交通渋滞は凄いし、カオスだよね、疲れるでしょうって言うけれど、私はちっとも疲れない。確かに人も車も多くて、混雑する群衆の流れに敢えて逆らって進もうとすればストレスを感じるけれど、流れに身を任せてしまえば、意外とラクなものです。インテリアや居住空間では、京都や大阪も行ったけれど、日本の伝統的な側面の方が好きですね。何だかリラックスできます。日本の職人の手仕事については、まだ不案内で、言及するほどではありませんが。


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----ある新聞記事によれば、家具職人の聖地ブリアンツァでも、2011 - 2013年の2年間で900軒もの中小の工場が倒産したそうですね(ただし、約16,800社は奮闘中、うち75%は中小企業、84%はイタリア系企業)。人件費の安い外国の労働力に依存して作られた安いモノが溢れる中で、イタリアだけでなく日本でも、質は高いけれど、それなりの価格の付くものづくりを守る職人たちは、後継者不足に悩んでいます。いい処方箋はありませんか?


私もその記事、昨日の新聞で読みましたよ。そうですね。日本のものづくりといえば、何人かのデザイナー、特に建築の分野では世界的に活躍する人の名は浮かぶけれど、日本全体でのものづくりイメージは、まだまだ見えてこない。でも、何人かの有名な人が出てくるだけではだめで、細部を支える個々の職人も、デザイナーも建築空間も、その地域も、全体が成長していくことがとても大切です。

それから、イタリアも一緒ですが、文化の中でも職人たちの技術力のようなものを引き出すのは、やっぱり経済の力です。だから、経済の停滞が長引けば長引くほど、それらは日の目を見ずに消えてしまいかねない。経済は大切だし、今のような時代には経済的理由で、本当に質のいいものを買えない人が増えているというのも事実です。けれども幸い、今はまだイタリアでも、おそらく日本でも、職人や工場製品の技術力の高さは維持されているはずです。ただ思うに、現時点で経済的理由以上に大きく欠落しているのは、コミュニケーションの力です。伝える力。いくら高い技術があっても、美しいものがあっても、その価値を誰かに伝え、創造的なコラボレーションをしていく、その土台を作るのはコミュニケ―ションの力なのです。

 本当に質の高いものが売れないのは、おそらく経済的理由からだけではない。余裕はあっても居住空間のデザインなどにまったく関心のない、ただのねぐらに暮らしている若者は幾らでもいます。意識の問題、価値観の問題で、この現状を打開するには頭をリセットするしかないでしょうね(笑)。



----ショックを受けるほどの斬新な方法や、多国籍企業も脱帽のマーケティング力が発揮されるべき時代なのかもしれませんね。ところで今後、日本の職人たちとフレックスフォルム社がコラボレーションするといった可能性はあるのでしょうか?


それはとても難しいと思います。なぜならば、フレックスフォルムが大切にしている"イタリアらしさ"というものを共有するのが、至難の業だからです。それにご存知の通り、私たちの会社はメーダの工場を中心に、徹底して現地生産にこだわっていますから。



----その答えを聞いて、残念な気もしましたが、安心もしました。ちなみに、メーダの工場では何人くらいを雇用していらっしゃいますか?


工場の中では、従業員は140人ほどです。けれども、その周辺にある革の加工、木工、テキスタイルなど、幾つもの小さな工場と専属契約しています。他社の仕事も受けているのは、そのうち数軒しかありませんよ。



----そうやって、しっかりと地元の職人の手仕事を守り続けているわけですね。工場で働く職人さんたちの中には、二代目の方も多いでしょう?


すでに三代目もかなりいますよ。



----ところで、何かご自身で愛用されている日本製品はありますか?


僕の帽子は、実は日本製なんですよ。銀座のお店で、来日するたびに買っています。イタリアにもボルサリーノがあるんですがね、日本の帽子をとても気に入っています。それから、重い鉄製の無水鍋。あれは、予約してから半年も待ちましたよ。それに優れた包丁といえば、世界中で誰もがすぐに日本製を思い浮かべる。日本中のいろんな手仕事の世界が、そのレベルになっていくと申し分ないですね。


Text_Natsu Shimamura Edit_Shigekazu Ohno(lefthands) Photo_Isamu Ito(lefthands)


フレックスフォルム東京
東京都港区南青山6-11-1
Tel. 03-6418-5590
営業時間│11:00 - 19:00
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