日本酒を様々な角度からスタイリングし、その魅力を世に広め続けている島田律子さんが、富山高岡の金属加工メーカー「NAGAE+」とコラボレート。一つの酒器でさまざまな味わいを楽しめるという無限の飲み口を持つ、これまでにない新しい酒器「TRAVEL CHOCO 旅する猪口」を監修しました。 そんな島田さんに、日本酒スタイリストになられたきっかけや、開発秘話についてお話をうかがいました。
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日本酒には、日本人の心や歴史が詰まっています。
_はじめに、日本酒との出会いについて教えて頂けますか?

もともとお酒が好きなんです。でも、実を言うと最初はワインから入っているんですね。私がキャビンアテンダントをしていた20代前半は空前のワインブームで、私もワインコーディネーターの資格を持っていました。どこのお寿司屋さんに行っても必ずワインセラーが備えられていて、お寿司をつまみながらワインを飲むというのが当たり前の時代だったんです。もちろん私もワインを楽しんでいたのですが、ある時、お寿司屋さんで隣に居合わせたおじさんが、お寿司をつまみながらクイッと日本酒を飲んでいて、それがとても新鮮に映ったんです。私もお店の方に聞いて、勧められた日本酒を飲んでみたら、すごく美味しくて。ネタの素材が持つ味わいを引き出してくれると同時に、酢飯の酸味もまろやかに洗い流してくれる効果もある。ワインとはまた違うマッチングを感じることができたんですね。また日本酒は、ワインと同じ醸造酒であり、日本のお酒である、ということも興味を持ちました。
 
_日本酒スタイリストになられた経緯をお聞かせ頂けますか?

当時は日本酒の知識がまったくなかったので、自分で選べるように勉強を始めたんです。勉強していくうちに、日本酒が「並行複発酵」という世界的にも非常に複雑なつくりをしていて、非常に手間暇がかかっているのだと知りました。「米」「米麹」「水」でこの様な素晴らしいアルコールができるということにまず驚きましたし、日本酒には日本人の心や歴史が詰まっていると感じたんです。知れば知るほど奥が深くて、すっかりその魅力にはまり、「唎酒師」の資格を20代後半に取得しました。その後、日本酒造組合中央会から、日本酒を愛する各界のプロフェッショナルが、それぞれの専門領域において、日本酒の魅力を世界の人々に啓蒙していく「日本酒スタイリスト」に任命頂き、活動しています。

日本酒づくりは愛情を注いだ分だけ良い子に育つ、丁寧な子育てのようなもの。
_日本酒の魅力はどういうところにあるのでしょうか?

日本酒は、日本人が生み出し、培ってきた文化なんですよね。手をかけなければつくれないという点で、やはり日本人だからこそ、ここまで育んでこられたのではないかなと思います。「米」「米麹」「水」からできると言うと単純に聞こえますが、実際につくっている工程を見ると、蓋を閉めていないんですよね。蓋のない状態で発酵させるとは、空気中や自然界にある菌をすべて取り込むということです。今でこそ冷房施設が整えられ、管理がコンピューター化されてきていますが、それこそ昔は、しっかり見ていないと腐らせてしまうという状況でした。愛情を注いだ分だけ良い子に育つという、本当に丁寧な子育てのようなものですよね。丁寧な仕事ぶりからも、日本人らしさが感じとれます。

また、日本には四季の美しさや自然の美しさがあるというところにも魅力を感じました。四季折々に節句という催事ごとがあり、私たちは日本酒を飲みながらお祝いをしてきました。冬には「正月」、春には「桃の節句」や「端午の節句」、夏には「七夕の節句」、そして秋になると「重陽の節句」があります。


日本酒を飲む行為自体に、日本人の心が映し出されていると思うんですね。例えば、今では春恒例のアウトドアパーティーのようになっている「花見」も、元々は豊作を祈るための行事でした。桜の木には、田んぼの神様が宿っていると考えられていて、田んぼで育ったお米からつくられた日本酒を飲むことで願いを込めていたんです。このように節句すべてには意味があり、日本酒を飲むことは神様に近づく行為であり、神様を敬い、縁起を担ぐという日本人の美しい心の表れなんです。だから今、日本人らしい美しい心というものを、日本酒を通してもう一度見直し、忘れないようにしていきたいと思っています。

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日本酒は健康と美容に効く「百薬の長」。
_日本酒にはどのような特徴があるのでしょうか?

日本酒は「百薬の長」「若返りの水」と言われているように、米と米麹の発酵食であり、非常に栄養価が高いのが特長です。例えば、ビタミン、ミネラル、有機酸、アミノ酸など、実に120種類以上の栄養素が含まれています。栄養を摂ろうと思ってお酒を飲む人は少ないかもしれませんが、実は日本酒を飲むことで身体に良いことが沢山あります。特にアミノ酸に関しては、同じ醸造酒であるワインと比較しても、なんと8〜20倍も多く含まれているのです。アミノ酸にはお肌の保湿効果がありますし、麹酸には美白効果がありますので、女性には特に嬉しいですよね。

また、アルコール飲料には血管を拡張させる成分が入っていますが、日本酒には血管の収縮を阻害する成分が、他のアルコール飲料に比べて圧倒的に多く含まれていますので、血の巡りが良い状態が長く続くんです。血管年齢は身体年齢を表すとも言われる通り、血の巡りが良くなると栄養素が身体全体に行き渡り、毛細血管の働きまで高めてくれます。

肌ツヤが増すという美容効果もありますので、日本酒を飲んだ次の日は、女性はお化粧のノリがいいと感じるのではないでしょうか。また、血の巡りが良くなり身体が温まるので、肩こりや冷え性にお悩みの方にもおすすめです。日本酒は絶対に飲んだ方がいいと思います!

 
_島田さんが酒器をつくろうと思った理由をお聞かせ頂けますか?

日本酒の魅力に惹かれ、日本酒スタイリストとして仕事をさせて頂く中で、だんだんと酒器にも興味を持つようになりました。やはり、日本酒の美味しさを最大限に引き出そうとすると酒器に行き着くんですよね。そして酒器にもまた、日本のものづくりにおける素晴らしい魅力が沢山詰まっています。味わいというのは、見た目や口あたりなど、五感で感じとって美味しいと感じるものだと思います。同じお酒でも素材や形によって、お酒の味わいも全然違ってくるという点に面白さを感じました。
日本酒の楽しみを広げる「マイ猪口」という考え方
_今回、NAGAE+と島田さんがコラボレーションして「旅する猪口」をおつくりになった経緯をお聞かせ頂けますか?

NAGAE+の鶴本さんとは10年来の友人なんですが、久しぶりに会ったら、お互いお酒に関わる仕事をしていたんですね。そこから、「お花見の時にマイ猪口を持っていきたいね」という話になりました。いろんなシーンで日本酒を楽しむ際に、どんな酒器でもいいというわけにはいかないじゃないかと。例えば、お花見でせっかく美味しいお酒を飲む時に、プラカップでというのはもったいない。そういう時にみんなでマイ猪口を持ち寄れば、自分がどの御猪口かもすぐ分かりますし、ゴミも出ない。さらに御猪口談義に花が咲く。それもまた日本酒の楽しみ方の一つになるはずだという話をしたんです。でも、陶器やガラスだと割れてしまうから、割れない御猪口をつくろうと(笑)。一つの御猪口ですべてのお酒が最高に美味しくなるような酒器ができたらというのは、私の中でずっと温めていたもので、鶴本さんと話をして「やろう!」ということになりました。
 
_素材に錫を選んだ理由はどういうところにあるのでしょうか?

私の中では、マイ猪口という考え方において、持ち運ぶときに割れにくいというのは絶対譲れない条件でした。錫であれば、まず割れることがないですよね? さらに錫には、イオン化効果でお酒をマイルドに美味しくしてくれるという特徴があります。実際に日本酒業界においても、マイ猪口を持ち歩く酒蔵さんの中には、錫の御猪口を持っている人が多いんですよね。私も以前から、錫は日本酒が最高に美味しくなる酒器だと思っていて、実際に使っていたんです。ちょっとした友人へのプレゼントに、お酒とセットでプレゼントしたりもしていました。錫は、金属のかっこよさがある反面どこか温かみがあり、優しい印象があるという点も気に入っています。

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自分が一番美味しいと感じるポイントを、
まるで旅をするように探す「旅する猪口」。
_「旅する猪口」のこだわりのポイントを教えて頂けますか?

まず一番のこだわりは形状です。「トランペット型」「白ワイングラス形状」「赤ワイングラス形状」が一つの御猪口で曲線を描くように繋がっている点が特徴です。それによって、1mmでも向きを変えると、味わいが全然違ってきます。味わいは、お酒がどのくらいの量が入ってくるのか、どのぐらいの速度で舌を通るのか、どのぐらいの舌の面積を通るのか、によっても変わってきますので、顎の上げ方にも関係します。実は私たち日本人の酒器というのは、ほとんどがトランペット型でした。この形状は酒器を傾けるだけで口に入ってくるので量も多く、顎も挙げずに舌も登り坂のため、舌での滞在時間が長い。酒の個性が一番ダイレクトに伝わってくる飲み口なんです。逆に飲み口がすぼまっていると、顎を上げることになりますので、トランペット型に比べて口に入る量は2/3くらいになります。舌も下り坂になりますので、舌での滞在時間は短く、さらっと喉に流し込まれることになります。

白ワイングラス形状は、すぼまる角度も鋭角なので、お酒は少なく繊細に入ってくるため、味わいはすっきりと感じます。赤ワイングラス形状では、下の方が膨らんでおり緩やかな曲線ですぼまっているので、舌を通る面積は広く、ふわっと柔らかく丸みのある味に感じられるのです。「旅する猪口」は、回しながら飲むことで、自分が一番美味しいと感じるポイントを、旅をするように探す楽しみがあります。また、料理にお酒を合わせていくということもできます。お魚料理なら繊細に入ってくる飲み口にしようとか、肉料理なら丸みのある味わい、またはダイレクトに入ってくる飲み口にしようとか、この猪口があれば、一つのお酒でも飲み口を変えるだけで、自宅でも気軽に何種類もの味わいを楽しめてしまうわけです。


もう一つのこだわりは、大きさです。実は「旅する猪口」は、普通の御猪口に比べて少し大振りなんです。この大きさにはまず、少なめに注いで頂いて、スワリングし、香りも楽しんで欲しいという意図があります。日本酒は繊細なので、赤ワインのように何回も回して花開かせるものではなく、1、2回さっと回して膜をつくってあげるだけで香りを楽しめます。あとは、ぜひマイ猪口にして持ち歩いて頂きたいという想いから、汎用性も考えて大き目にしたという理由があります。御猪口とはいえ少し大振りにしたことで、小ぶりなワイングラスとしても使え、さらに、ペットボトルのお茶などもこれに注いで飲むことで、錫のイオン化効果によりマイルドな味を楽めるんです。大きいけれど大酒飲みという印象ではなくて(笑)、存在感や安定感が感じられると思います。

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日本酒への情熱、ものづくりへの情熱が生んだ究極の御猪口。

_この形状になるまでに、どのような試行錯誤があったのでしょうか?

私の中では前からなんとなく欲しい酒器のイメージは持っていたのですが、実際私はものづくりのプロではないので、思い描いているものが本当に形になるのかどうかが分からなかったんですね。でもそのような中で、NAGAE+の素晴らしい技術に出会い、形にすることができました。どこで飲んでもいいというカーブの形状も、その時に生まれました。この酒器には、日本人女性の凜としさ美しさから、桔梗の花が蕾を開いていく様子が表現されているのですが、そういう物語もその時自然に生まれてきたんです。いろんな偶然が重なりながら、この究極の形になっていったのだと思います。日本酒への情熱、ものづくりへの情熱がそれぞれ越境してできたのではないでしょうか。
 
_日本のものづくりにおいて、大切な要素はどこにあるのでしょうか?

時代が変わってきて、日本の素晴らしさというものに、もう一度日本人が戻ってきているという気がします。日本には、世界に誇れるすばらしい技術があり、歴史があります。私たちも使い手として、ものの背景にあるストーリーをきちんと理解していく必要があるのではないでしょうか。ものづくりの歴史を知ることは、そこに生きた人たちを知るということです。そういう人たちの想いをきちんと汲み取りながら、ものを愛でていかなければいけないなと思います。
 
_今後のビジョンについて、教えて頂けますか?

世界ですね。まずは日本人に知って頂きたいというのはもちろんなのですが、これこそ世界で戦える、日本が誇るすばらしい技術ですから、やはり世界の皆さんにも知って頂きたいなという夢を抱いています。
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島田 律子

スマイル ブリュー カンパニー代表・日本酒スタイリスト(日本酒造組合中央会認証)
日本酒関連の講演・イベントの司会や出演など年間50本以上をこなす。 TVや雑誌などのメディア出演・コラムの執筆も多く、イベント、飲食店、百貨店、酒器のプロデュースやコーディネートなど、日本酒の魅力を伝える活動は国内外を問わず多岐にわたる。近年、女性ならではの視点から、日本酒の美容・健康効果に着目。日本酒の美肌・美白・アンチエイジング効果を取り入れたライフスタイルを提案し、 自らもその生活を実践する。2016年にはSMILE BREW COMPANYを立ち上げ、「日本の美を日本酒で」をテーマに『オトナの日本酒TASHINAMI塾』を主催する。


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