横山興業が手がけるファクトリーブランドBIRDY.は、自動車部品製造から転用した独自の研磨技術で素材の味をまろやかにするカクテルシェーカー、テーブルウェアを展開しています。

前編に続き後編は、企画から実際の製品開発、ディレクションまでの葛藤や想いについてをうかがいました。

横山興業BIRDY. のものづくり【前編】 はこちら>>

▲ 横山興業株式会社 BIRDY. ブランドマネージャーを務める横山哲也氏 

 

社内に設計開発部門がなくても、技術の棚卸しで強みを探す

 

――BIRDY.開発のヒントは、主力事業の自動車部品製造と関係しているのですか。

自動車部品自体を研磨することは一切ありませんが、部品を製造するための金型の一部を研磨します。金型の中に金属の板を入れて、ガシャンとプレス機で圧力をかけると何らかの加工が行われます。カクテルシェーカーに応用されているのは、プレスでの精密な穴開けや絞りの深い加工など、特に高い精度を求められる加工部分に施される研磨技術です。

 

▲部品を何万個も作る際、膨張し穴の精度が変わるそうだ。研磨は、金属が擦れ合う摩擦熱を軽減する役割として働く。

 

――開発の流れはどのように動き出したのでしょうか?

タイで学んだ「アライ・コ・ダイ」のマインドから下手でも商品開発をやり始めましょうと頭を切り替えました。が、実際にスタートしようと思った際、社内には設計部門が無いことがネックとなりました。製造業の下請け企業では、お客さんが書いた図面に対し、品質、価格、納期をいかにバランスよく提案できるかが重要で、設計をイチから始めることがないんです。

 ――ふだんは作る物や制約があるが、ゼロからのはじまり・・・

はい、制約が何もなくなってしまった。そのとき、創業者である祖父の代より金属加工を生業にしてきたので、材料は金属にすると縛りを設けました。次に何を商品の特徴にしていくかを探るため、技術の棚卸しを行いました。当社の強みをくまなく探していったところ、手作業でしか出せない精度の研磨技術が見つかりました。

 

 

液体と金属のふれあいで、味が損なわれているのではないか

 

――手作業でしか出せない精度の研磨の技術とは、具体的にどんな研磨でしょうか?

金属の表面はツルツルに見えてミクロレベルではかなり凸凹しています。当社の研磨技術では、条件が整えば0.01ミクロンレベルの凸凹しか残らないほど真っ平らにできます。その技術をフィーチャーすることで、何か新しい付加価値を創造できないかと考えました。

 ――どのような考え方で進めていったのでしょうか?

加工の基本である「転写」という考え方に着目しました。包丁を例に説明します。包丁がなぜモノを切れるかというと、先端が尖っているだけでなく、ミクロレベルではギザギザになっているからで、その鋭利なミクロのノコギリがモノを切断していきます。包丁でモノを切った場合、切られたモノ側の切り口は刃の先端のギザギザと同じ形となります。ミクロレベルの話ですが、これが加工の「転写」という考え方です。この「転写」は「モノとモノ」の間に起こることですが、「モノと液体」にも適用されるのではと考えたのが発想の原点です。

――その考え方がカクテルシェーカーの開発に繋がっていると。

一般的に販売されているカクテルシェーカーの内側表面を精密測定したところ、ミクロレベルでは剣山のようにささくれ立っていることが分かりました。カクテルのシェイキングを加工と置き換えた場合、シェイクをすればするほど、表面の粗さが材料に転写され続けていく。それによって、味や風味が損われているのではないかと仮説を立てました。その雑で粗い転写を、研磨によって滑らかな転写に出来るかもしれないと。

――面白いですね、味が損なわれる点について詳しく教えてください。

金属もモノも液体も、全て分子構造を持っています。金属同士、モノ同士のふれあいで転写が起きるのであれば、金属と液体の間でも同じく転写が起こるだろうということです。よく砥がれていない包丁よりも、よく砥がれた包丁で切られた肉や魚の方がきっと美味しいですよね。それがカクテルシェーカーでも起こるのではということです。

――結果はどうだったのでしょうか。実際にどんなシュミレーションを?

デパートでふたつシェーカーを買ってきて、そのうちひとつの内側を社内の技術者に研磨してもらいました。バーテンダーの方に協力していただき、研磨したシェーカーと買ったままのシェーカーで、「ギムレット」というカクテルを同じ分量で作ってもらい比較しました。結果としては、バーテンダーの方と私と、二人とも言葉を失うほどの変化が現れました。

それから、量産化に向けたトライアルの日々が始まります。研磨方法が異なる3~4パターンのシェーカーを用意し、勝ち残り方式で1番良かったものを残し、また別の日に異なるパターンのシェーカーを投入し試していくという繰り返しです。試験時刻は毎回午後の6時に同じ体調で飲むというルールで、合計200杯ほどのギムレットを開発期間に飲みました。

 

 

▲ 研磨せずにむき出し状態のタンブラー(左)と独自の精密研磨技術で加工されたもの(右)

 

――それはすごいですね。どの研磨を採用するかの判断基準はどんな風に決めたのでしょうか?

これまでの商品と比べてちょっと違うくらいではなく、賛否両論あっても圧倒的に違う仕上がりになるものにするという考えで、研磨方法を選択しました。あとは自分が商品としてちゃんと魅力を感じるかどうかも重要です。

 ――横山さんはどういうものに魅力を感じる人なんですか?

「新しい」とか「違う」ことが好きです。でも「新しすぎ」てもいけないですし「違いすぎ」てもいけなくて、そのバランス感覚が上手な音楽、ファッション、アート、料理、もちろんカクテルに出会うと嬉しいですね。

――なるほどですね。どこかにちゃんと分かりやすさがあることもヒットの要因かもしれないですね。

 

 

自動車部品は、“バーディ”を作ってはいけない

 

――味の違いという大きな発見があり、そこから開発はスムーズだったのでしょうか?

最初はバーテンダー相手という市場規模の小ささと、販売のノウハウもないことから、事業化のため会社を説得するのに苦労しました。開発のコスト試算もなかなか現実的に難しい部分がありました。

――どう逆転させていったのでしょうか。

逆転させるために出来る範囲で徹底的にリサーチをしました。バーの業界を想像すると、店はこじんまりと小さく、酒離れによってバーに行く人も減っているイメージがあるかもしれません。しかし、海外を含めると実に面白い市場であることがわかりました。当時は、日本人も含め世界的にスターバーテンダーが誕生しつつある時期で、世界規模のカクテルコンペがどんどん巨大になっている時でもありました。日本中のバーへ行き現場の雰囲気を確認しながら、会社を説得するための企画書をたくさん書いて、海外も含めひとつの市場と考えることで市場規模を確保し、グローバルに通用する戦略を立てました。現在では売り上げの3分の1が海外向けとなっています。

 

▲業界内でも好評のBIRDY.は、カクテル材料の流れをスムーズにする用途それぞれの加工が施されている。研磨の方向や磨きの残し方にミソがあるそうだ。左からカクテルシェーカーバーボン CS350 CS500 、カクテルを混ぜ合わせる用途のミキシングティンバーボンMT540

 

 ――ところでBIRDY. というブランド名の由来はなんですか?

BIRDY. というブランド名はゴルフの「バーディ」から名前を付けています。ゴルフにはホールごとに規定の打数があり、そのホールの規定打数で終わることを「パー」と言います。パー3打のホールで、1つ少なく2打であがるとバーディと呼ぶんですね。BIRDY.には、パーが意味する「水準」よりもひと段階上の商品を作りましょう、という決意を込めています。

逆に自動車部品製造の世界では基準よりひとつ上の“バーディ”を作ってはいけないんです。基準から少しでも外れたらそれは不良品を意味します。部品の精度を上げたために逆にクレームをもらうということも、ごくまれにあります。

また、野球やサッカーでは点をプラスしていく事で価値が高まりますが、ゴルフの点数はマイナスなほど価値が高い。研磨は金属を削るという点でマイナスする作業ですし、要素をそぎ落としていくブランドのデザイン思想も、ゴルフの「バーディ」に通じるものがあると思い名付けました。

――自動車事業にも繋がっているのが、横山興業らしさでいいですね。

 

 

 

クリエイター感覚を持った挑戦する人の心の支えに

 

――最後にクリエイション部分について教えてください。このかたちはプロダクトデザイナーによるものですか?

形状はバーテンダーの意見を集約しながら、新進気鋭のプロダクトデザイナーに図面への落とし込みをお願いしました。MUTEというデザインユニットです。ブランドづくりのノウハウなど何もない状態だったのですが、当社と同じくらいの小さな企業の案件を経験していることを重視しました。実際にお会いして、実績ももちろんですがコミュニケーションを上手く取れるだろうという人に決めました。

 ――道具で材料の味までもより良くできるというのは、真似のできない優れたものづくりだと思います。初の商品開発で世界を舞台に戦える商品まで引っ張ってきているのが素晴らしいですね。

BIRDY.のお客様は国内問わず若くて挑戦心の溢れた方が多く、クリエイター感覚を持った方々に支持をいただいております。ブランドとしては、今までの常識を打ち破りどんどん新しいことに挑戦をしていく方々を、道具屋という立場から支えていきたいと考えています。

新しいことをするというのは孤独な作業ですが、私たちもブランドとして常に新しい挑戦をしていくことで、ユーザーである皆さんの心の支えとなるようなブランドだと感じて頂ければという想いがあります。

 

 

横山興業株式会社 

昭和26年7月、横山商店として愛知県豊田市若宮町にトタン板専門店を創業。以来、建築資材の製造販売、自動車用プレス部品、太陽光発電事業など幅広いニーズ対応する。ハイテン材(高張力鋼板)と呼ばれる硬くて曲げにくい素材のプレス加工を得意とし、軽量かつ高強度に仕上がる製造技術を提供している。新たに開発されたBIRDY. は0.1ミクロンレベルの精密研磨技術でつくられたカクテルシェーカーとテーブルウェア。これまでにない画期的な製品としてバーカルチャーやメディアを中心に注目を浴びる存在だ。http://birdy.jp.net/

 

 

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