職人インタビュー vol.3
田中耕太朗( 江戸すだれ 田中製簾所 )
Text&Edit_Shuhei Sato Photo_Hiromasa Sasaki
 
 
ー  江戸っ子だから粋じゃないとダメなんです  ー
 
レザー製品を筆頭に、江戸時代よりものづくりの町として栄えてきた東京の浅草。年々、数は減ってきているものの、伝統的な手法を駆使した工芸品を作る老舗工房が点在している。そのひとつが、今回ピックアップした田中製簾所だ。
 
簾(すだれ)は、日本人であれば、誰もが一度は見たことがあるだろう。古来から室内のしきりや日よけなどに使われており、平安時代に書かれた清少納言の『枕草子』にも描写されている。江戸時代には、それまで将軍や大名、旗本などの高い身分の人間しか使えなかった簾が、商家や庶民の間にも広がっていった。その時代より受け継いだ江戸すだれを頑なに作り続けているのが、五代目となる田中耕太朗氏だ。江戸すだれにおいて、東京都より伝統工芸士として認められているのは、先代を含めて二人しかいない。
 
「うちの初代が、この家業を始めたのが明治時代初期。江戸すだれの工房で修行をしてから起業したようです。私たちは、その伝統的な手法を脈々と受け継いでいます。工房を構えている浅草は、地方の伝統工芸を持つ土地と比べると少し特殊な気がします。
どういうことかと言うと、例えば漆塗りが名産の土地があるとしますよね。そこに漆塗りが生まれたのは、原料となる漆が、その土地で取れたからでしょう。伝統工芸は、伝統的な技術とその土地の特産物が組み合わさったケースが多いと思います。
しかし東京は江戸時代から急激に発達した町。うちの簾の原料となる竹が豊富な場所ではないわけです。そうなると技術で差別化するしかない。だからこそ江戸の職人は粋でないといけなかったし、野暮なものは作れないのです」
 
sudare16.jpg
 
ー  原材料の質には 絶対的にこだわる  ー
 
確かに東京という街は、簾の原料となる竹が取れるわけではない。実際に当時より、他の地域に頼っていたはずだ。田中氏が体現している江戸すだれの製造法は、驚くくらい手作業で丁寧に作られている。
まず竹を一定の長さに切り、水洗いで汚れを落とす下ごしらえを終えた後に、その竹を1つずつ鉈で割り、そして順に並べて乾燥させることで、やっと材料になる。そして編みを施し、最終的な仕上げを行うのだ。その中でも、田中氏が強いこだわりを持つのが、原材料となる竹だ。
 
「お金を出してくれるお客様に、長く使えるものを提供するのが一番の使命だと思っています。安価な中国産の簾が多いですが、ああいうものは一夏保てばいい方じゃないでしょうか。
うちのは用途にもよりますが、10年、20年はお使え頂けますし、定期的にメンテナンスをすれば、ずっとご愛用して頂けると自負しています。商売的には定期的に買ってもらった方が儲かるのでしょうが、そうはいきません(笑)。
もちろん手作業による様々な工程も大事ですが、悪い竹をよくはできませんので、原材料の質には絶対にこだわります。ただ竹は自然のものですし、同じ土地でも年によって、クオリティが異なる。だから複数の土地から選ぶようにしていますし、業者とも長年の信頼関係が築けていますから、妥協なく竹を選択できるのです」
 
sudare12.jpg
 
sudare13.jpg
 
 
ー  職人の手も機械も使い分けることが大切。  ー
 
原材料となる竹のピックアップも素晴らしいが、入念な下準備も芸が細かい。特に竹を裁断する際も高度な職人技とこだわりが息づいていた。
 
「鉈で割った竹は、繊維に沿っているので強度があるのです。繊維にそって少し曲がってしまう場合もありますが、繊維を無視して機械で割ってしまうと使っているうちに竹が暴れてしまう。だからのり巻き簾のような道具として使う小物は、竹割りから全て手作業で行っています。竹を割った順に並べて編むことで、竹についた傷やシミもつながり、繊維にそって少し曲がってしまっても、隣同士で同じ線を描いているから、美しく見えるのです。
逆に日よけの簾は機械を使って竹割りをします。繊維には少し負荷をかけてしまいますが、吊るしたときに線がまっすぐになるので、仕上がりがきれいなんですよ。
個人的にはなんでも手作業ですればいいと思っていません。もちろん伝統的な手法は大切です。しかし簾は生活様式に合わせて使うもの。ずっと一緒のものを作り続けても、現在のライフスタイルに置いていかれてしまうし、文明がこれだけ進歩しているので、手作業よりも機械を使った方が、結果的にクオリティが高くなるケースもあります。
うちは基本的にオーダー製なので、お高く見られるかもしれませんが、そんなことはない。どんなオーダーにも応えたいと思っていますし、それを実現させるのが職人の使命だと思っています。もちろん中国産の簾よりは値は張りますが、長年使うことができるので、結果的に損はないはずです。あとは現在の生活様式に合わせたモダンさも大切にしていますね。江戸の職人は、野暮なものを作れないですから!」
 
 
安いものを頻繁に買い替えるのではなく、長年使えるものに出会えることは、大袈裟に言ってしまえば、人生にとって有意義なことだ。近年は、大量生産大量消費の時代から、ひとつのものを長く使うことが美徳となる時代へシフトしている。日本に根付いている伝統工芸こそ、この価値観を体現しており、もう一度見直すべきであるのだ。
 
sudare14.jpg
 
 
職人:田中耕太朗/Kotaro Tanaka
 
田中製簾所 五代目/伝統工芸士
 
明治初期より、百年余年受け継がれる田中製簾所。五代目となる田中耕太朗氏は、東京都伝統工芸品「江戸すだれ」の伝統工芸士に認定された職人。江戸すだれにおいて、東京都より伝統工芸士として認められているのは、先代の義弘氏を含めて二人しかいない。
 
 
 
江戸すだれ「田中製簾所」
 
〒111-0031
東京都台東区千束1-18-6
営業時間:月〜金/6:00~18:30 土/6:00~17:30    日/6:00~17:00
※季節によって異なります。臨時休業等もございますので、ホームページにてご確認ください。
 
ホームページ http://www.handicrafts.co.jp/