創業者の哲学を今も受け継ぐ。

1880年に創業された山本勝之助商店は、「かねいち」の屋号で知られる棕櫚ほうきのスペシャリストだ。棕櫚(しゅろ)という昔ながらの素材を活かしたほうきは、一生に3本あれば事足りると言われるほどの耐久性を持つ。今から約130年前にこの商店を立ち上げた創業者、山本勝之助の志を今も引き継いでいると土田さんは言う。

「ほうき作りの核となる棕櫚(しゅろ)という植物は、もともと和歌山に群生していたんです。今は残念なことに国内では棕櫚皮を集める職人がいなくなったことから、海外から輸入していますが、当時と比べて、けっしてクオリティは下がっていません。この棕櫚という原料は、加工がしやすい上に、油分が多いため水に強く、耐久性が高いのが特徴です。ほうき以外にも昔の土壁の竹小舞の結びや漁師たちが使う網にも使われていました。私どもも、ほうきからではなく、創業者である山本勝之助が漁師向けの網を棕櫚で作ったことが商売の発端なのです。この勝之助が実におもしろい人物だったんですよ。自身で作った漁網を持って、全国に売り歩いたのですが、『まずは使ってみて、よかったら注文をください』と無料で配ったんです。そこからリピーターがどんどんと増え、商売が軌道に乗りました。また、和歌山の各地で棕櫚の苗木を無償で配り植栽するなど、商売を度外視した行動も行っていました。すべてはお客さまにいいものを知ってもらいたいという気持ちから起こした行動だと思うのです。お客様満足度を重視した商売は今では当たり前ですが、当時は本当にめずらしく、勝之助は変わり者扱いだったそうです(土田)」

すべてはお客さまのため。その心意気で道を切り開いた。

山本勝之助氏の金言にこんな言葉がある。『手廻しせねば雨が降る』。この意味は、『商いを行う者は、常日頃から仕事の段取りを整えて不測の事態に備え、相手に対して迷惑と不信を招かないことが商業道徳上の最大責務である』(本人の言葉のまま)とのこと。いわゆるマーケティング戦略が確立されていない時代に、山本勝之助氏が自然とそのようなことを実践していたのは、お客様や取引先を大切にしなければ商売は決してうまくいかないことを知っていたからであろう。その精神は、今も受け継がれている。

一生に3本あれば十分な高品質。

「昭和30年代頃までは掃除の主流はほうきだったのですが、電気掃除機の普及により需要が減り、今は手作りのほうきを作るところは少なくなってしまいました。棕櫚ほうきに限れば私たちも含め2社程度、たわしは3社程度だと聞いております。うちのこだわりとしては、とにかく頑丈で使いやすいほうきをお買い求めやすい価格で提供すること。棕櫚と竹は海外で採取し、仕掛かり状態でパーツを輸入し国内で仕上げます。全てを国内にこだわってしまうとその分の金額がお客さまにも負担になりますから。あとは実用性ですね。ほうきというものは重いと使い勝手が悪くなりますので、持ち手の竹の長さや握りやすい細さ、棕櫚を束ねた玉の数などのバランスが重要です。そういうことを考慮し、日本の伝統の技を駆使しながら、今流に少しずつ改良し実用性を保ったほうきを作るのが、我々の使命だと思っております。使用用途によって異なりますが、室内であれば、一生に3本あればいいと言われるくらいの耐久性があります。その昔は嫁入りの時には欠かせない道具でした。棕櫚のほうきは、繊維の油分でワックスの効果もあるため、掃けば掃くほど、光沢が出るのも特徴です。最初から屋外用にするにはもったいないので、最初は室内でお使い頂くことを薦めています(土田)」

海外で原料とパーツは調達するものの、肝心なところは日本の職人によるハンドメイドで作られる。これもお客さまの金額的な負担を考慮したもので、ほうきは使ってこそ意味があり一般の人が手の出ない高価な飾り物にはしたくないという姿勢が素晴らしい。けっして安価なものではないが、何度も買い直さなけれなならない輸入品とは比べものにならないクオリティなので、結果的に消費者にとってプラスになることは間違いない。もちろん最先端の家電を否定する気は毛頭ないが、今一度昔ながらの製品を日々の生活で使うのも、悪くないはずだ。

土田貴史/Takashi Tsuchida

山本勝之助商店/店主

山本勝之助商店のある和歌山県海南市は、温暖な気候のもと自然の恵みが豊かなところです。
ここは時間がゆっくりと流れており、ちょっとインドネシアあたりの東南アジアっぽい雰囲気を漂わせています。
この地をいつか訪ねていただき、伝統的な「もの」や「こと」、「ひと」の良さ、それを守り継いでいく想いなどに共感をもらえましたら、うれしく思います。

山本勝之助商店
〒642-0024
和歌山県海南市阪井679
営業時間:10:00~17:00(日曜定休)

ホームページ
http://www.kanneichi.com/index.htm

Text&Edit_Shuhei Sato