職人インタビュー vol.8 
MokuNeji
 
谷口照知(たにてる工芸)/Shouchi Taniguchi
谷口龍人(たにてる工芸)/Ryoto Taniguchi
谷口天平(たにてる工芸)/Tenpei Taniguchi
古庄良匡(古庄デザイン事務所)/Yoshimasa Furushou
 
 
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美しさと機能性を兼ね備えたプロダクト「MokuNeji」シリーズ 
 
工業製品が持つ高い性能と木の柔らかで温かい風合いを見事に融合させたプロダクト「MokuNeji」シリーズ。
その名の通り、木にネジ切りの技術を施して、金属やガラスなどの異素材と組み合わせ、それぞれの素材の性質をしっかりと引き出した今までありそうでなかった美しさと機能性を兼ね備えたプロダクトだ。
木製部分を製作している「たにてる工芸」は山中漆器産地に位置する。山中産地は「木地(きじ)の山中」ともいわれており、お椀などの丸物をつくる轆轤(ろくろ)挽物分野において、職人の数・技術ともに国内でもトップを誇り、薄挽きや加飾挽きなどの高度な技術で他産地の追随を許していない。



今回、親子で工房を営んでいる、たにてる工芸の谷口照知(しょうち・父)氏、龍人(りょうと・長男)氏、天平(てんぺい・次男)氏と、デザイナーの古庄良匡氏に話を伺った。

 
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精度の高い山中産地の轆轤挽き物
 
山中漆器の一番の特徴は「縦木挽き」という、木を輪切りにした状態から木地をとる方法だ。他の産地で多く行われている「横木挽き」に比べると加工が難しく、一本の材料からとれる木地は多くない。しかし、丈夫で狂いが少ない木地に仕上げることができるため、「うす挽き」や「加飾挽き」などの細かい加工ができる高度な技術が発展したのだという。
 
「縦木挽きは小口をきれいにするのが難しいんです。木の繊維に逆らって加工をするので、紙ヤスリではうまく削れません。よっぽど切れ味のいい刃物を使うか、高い技術がないときれいにならないんです。それをきれいに仕上げることが出来るのが山中の技術なんですよ。(照知さん)」
 
 
 
 
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生活スタイルが変わり、自分たちで物を売る時代へ 
 
山中で行っている縦木挽きの技術は、1mmより小さい単位で轆轤を挽き、調整することが出来るという精度の高いものだ。これは縦木挽きでなければ出来ない技術で、世界的にも誇れる技術であることは間違いない。しかし、人々の生活スタイルは変わり、漆器が売れない時期が続いた。今からほんの6,7年前だ。
 
「なんとかしようと思って、みんな自分たちで物を売ろうとする時代があったんです。それで面白いものを作れば売れるんじゃないかと、変わったものを作ろうとしていました。一時期は催事ばっかり出してたこともありましたが、自分たちで売りに行ってもセールストークができる訳でもないし、その間は物を作ることができない。それでやっぱり自分たちで売るのは難しいと、諦めたんです。それでもずっともやもやっとしていて、そんな時に石川県が主催するワークショップに参加して、そこで古庄さんと出会いました。(龍人さん)」
 
「木地屋は茶托だったら茶托ばっかりとか、お椀だったらお椀ばっかりとか、得意な形状や技術が職人によって違うんですね。うちは一通りのことはできるけど、何でも出来るでは曖昧すぎるし、どれも専門の職人には勝てないと思いました。そこで何か勝つものがないかと考えたときにネジだと思ったんです。
うちも旋盤を使ってネジを切ったことはありましたし、当時ねじ切りをしていた職人は他に何軒かあったんですが、まだまだ技術は安定していませんでした。そんな時に精密な機械のモデリングをしている方が工房に来てくれて、ネジ切りのノウハウを教えてくれたんです。それでネジを極めようって、新しい機械(NCと呼ばれる数値制御による工作機械)を入れました。(龍人さん)」
 
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ペットボトルから生まれたMokuNejiシリーズ 
 
「ネジが切れるから、何かデザインしてという話が最初だったんです。一番最初にTOYGRIPを作りました。子どもがペットボトルを振って遊んでいたのを見て、持手がないから、持手をつけて遊べたらいいなと思ったんです。それで試しに、持手を作れますか?とペットボトルのネジに合わせて持手を作ってもらいました。そしたら出来上がった持手の精度がとても高かった。それでイケると思ったんですね。こんなに高い技術でネジを切れるなら、それを軸に商品を広げてブランドとしてやっていこうと話が進みました。(古庄さん)」
それからデザイナーの山崎宏さんが加わり、異素材と組み合わせるというアイディアが生まれ、SUS galleryとのコラボレーションが実現したという。
 
 
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「作るのは本当に大変でした。最初は大丈夫だと思っていても、後からちょっとずつ問題が出てきたんです。木が動いたり膨らんだり、少量生産の時は分からなかった問題が、生産量が増えて出てきたんですね。発表してから半年くらいは問題が山積みでした。それを一つ一つ解決していって、木工レベルじゃないなってところまで来ていました。気づいたら0.1mmの精度まで言い出していたんです。精度の高いノギスを買って、一カ所一カ所図って合わせていきました。普通、木製品だったら3mm位の誤差は許容範囲なんですね。それでも見た目には分からない誤差ですから、1mm直してくださいって言っただけでも普通は嫌がられます。普通だったら諦めてるなっていう山がいくつもあったんですが、それを諦めずにここまで返してきてくれて、本当に凄いことだと思います。(古庄さん)」
 
「一人じゃなかったからできたんだと思います。出来ますか?って言われて、出来ないって言うのは嫌だし、こうやったらできるんじゃないかって意見を出し合って進めていくことが出来ました。(天平さん)」
 
最初の展示会での反響が良く、そこからのスピードはとても速かったという。龍人さんと天平さんは笑いながら語っていたが、新しいことを取り入れて定着させるということは並大抵のことではないはずだ。
 
父である照知さんが二人の取組みについてこう言っていたのがとても印象的だ。
 
「彼らの取組みは本当にすごいですよ。ネジに関しての技術はこの1,2年でとても上がったと思います。今まででは考えられないくらいの展開でした。私の世代の職人にはとてもついていけません…。脱帽です。(照知さん)」
 
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使うことにこだわった道具のデザイン
 
「色んなねじを見ていて、ソースのフタとか。すごいなって思って。それが木でできたらって、いつもそんなことを考えながら作っています。木で三条ねじをやっているところは他に無いんじゃないかな。三条ねじは普通のネジより3倍早くしまるので、回す距離が短くてすむんです。(龍人さん)」
 

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COFFEE MILLの着脱部分は三条ねじという形状のネジになっている。
通常のネジは1本で螺旋を描くため、ぐるぐると何度も回さないと閉めることが出来ないが、三条ねじでは3本で螺旋が描かれており通常の3倍の早さで閉めることが出来る。
使い手が少しでも使いやすいようにと、デザイナーと谷口さんとでアイディアを出し合って選択された形状のひとつだ。また、外側からは見えない内側の構造にも同じように使い手を気遣った形状がとられている。
 
「COFFEE MILLは全部を分解できるようにボンドは使っていないんです。水洗いこそ出来ませんが、分解してドライで掃除をすることが出来るようにしています。
ボンドでとめた方が作るのは簡単なので、そういう話にもなりましたが、使うことを考えて、そうじゃない方法を選んだりしています。見えない部分なんですけど、使う道具なので、そういうところを気にして作っています。(古庄さん)」
 
 
 
「やりたいな、と思われる存在になりたい」
 
伝統工芸が広がり、産地は盛り上がりをみせているようにみえるが、まだまだ後継者の問題は続く。山中産地全体でも、挽き物職人は現在30人ほどしかいない。石川県には挽物轆轤技術研究所という職人を養成するセンターがあるが、現状、卒業生で職人になる人はほとんどいないとう。時間をかけた作品を作ることは出来るが、専門的に量産をするという職人を希望する人がいないのだ。
 
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「途絶えさせてはいけないし、そうさせないように頑張るのが私たちの仕事だと思います。
前向きに、産地全体で頑張らなきゃいけない問題だと思います。
楽しいんですけどね。大変だけど、大変な中でどうやって数をつくろうとか、どうやったらはやくできるかって考えて、それを楽しんでやっています。他のところではこんなこと出来ないだろうって思いながらやっていて、楽しいですよ。(天平さん)」
 
 
 
「継ぎたいなと思われる存在になりたいです。やってみたいなでもいいし、そう思われるように頑張りたいです。一回弟子にしてくださいって言われたことがありますけど(笑)。弟子ではなくて一緒にやれるメンバーが欲しいんですよね。これからはみんなで情報を共有してモノを作っていく時代。そういうふうに伝統工芸は変わっていくべきだと思います。(龍人さん)」
 
父の照知さんは二人の話に大きくうなずいていた。
 
「本当にそれに尽きると思います。伝統を受け継ぐというのは、そういうやりたいという気持ちがないと出来ませんから。我々がこういうことをしているというのを知って、そう思ってくれる人がいると嬉しいですね。(照知さん)」
 
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左から天平(てんぺい)さん、龍人(りょうと)さん、照知(しょうち)さん、古庄(ふるしょう)さん。
 
MokuNejiの製品は、使うことが楽しくなるものばかりだ。COFFEE MILLはゆっくりとコーヒーを飲みたい時に、Bottleは外に出かける時に、持ち歩きたくなるようなワクワクした印象を持っている。 作り手が作ることを心から楽しみ、決して技術を見せつけるのではなく、使い手のことを一番に考えて細部まで作られているからだろう。
 
 
MokuNeji
 
 
たにてる工芸
 

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