職人インタビュー

西 隆行 陶芸家

1616年、日本で初めて磁器が誕生し400年の歴史を持つ有田焼。
有田焼は陶器でなく磁器。石を砕いた粉を原料にしているのが大きな特徴です。

そんな日本の磁器の聖地とも言える、佐賀県有田町で作陶する西隆行さんは、
若手陶芸家ならではの自由な素材選びと斬新なアイデアが注目されています。
今回、陶芸との出会いからものづくりにおけるこだわりについて、深くお話しを伺いました。

 

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― 西さんは、どんなきっかけで焼き物の世界に入ったんでしょうか? ―

昔からものをつくるのが好きで、大学は建築やデザインの学校を受験して建築学科に進み、その後は一年くらい工務店で外構設計の仕事をしていたんですけど、建築って設計するのは自分でも建てるのは大工さんで自分の手でつくるわけではないじゃないですか。もうちょっと自分の手の内で収まる最初から最後まで自分の手でつくるものづくりをしたいなと思いまして、それで就職後1年くらいで脱サラして陶芸の方へいきました。なので、陶芸は23歳くらいから始めて8年くらいになりますね。

もともと大学のサークルで陶芸をちょっとやっていて、陶芸は原料をつくるところから焼き上げて商品にするところ、販売まで自分の届く範囲の中でできるところがあって。それに気づいて、8年ほど前に有田窯業大学校に行き勉強して、そこからまた助手を2年やって、いま独立して2、3年経ちます。でも助手の頃から百貨店などに商品を出していたんで、トータル5年くらいでいま自分の窯を持つ準備をしています。
有田焼は結構分業の世界なんで、窯元さんとかは絵付けの人、生地成形の人、釉掛けの人とか色々分けているんですが、自分は調合するところから全部やっています。

 

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― 西さんの作品にはいくつかシリーズがありますが、代表作について詳しく教えていただけますか? ―

釉薬の流れた表情が特徴の「SHIZUKUシリーズ」が取り上げられることが多いですね。下の土自体は磁器そのままで、有田の標準的な天草陶土という天草で採れている土なんですけど、磁器土がすごくなめらかでキレイな土なので土そのままを出したいと思っています。
結構、有田の方だと焼締めだと汚れるとか言われてあまりされないんですが、自分はこの土のままのなめらかさがいいなと思っているので釉薬は塗りません。しっかり焼締めて耐水ペーパーで磨いているんで、最初につくったもので5年くらい経つものあるですけど汚れてなくて真っ白ですね。もし油汚れとかをずっと放置してしまって染みたとしても磁器なんでキッチンハイターとか使えるんで、それで真っ白になるんで大丈夫です。
この流れている釉薬ですけど、通常釉薬というのは全体を薄く覆うものなんですけど、自分は上半分を通常の5倍から10倍分の厚みで分厚く釉をかけ、垂らしている感じです。あとは窯の中で自然と流れていきます。自然な液体の流れ方なので同じものはないですね。

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▲代表作のSHIZUKUシリーズ 時が止まったかのような液体の自然な流れを表現

 


― この特徴のある釉薬について、アイデアのヒントは何ですか? ―

もともと釉薬って窯の中で溶けて、かたまっているものじゃないですか。高火度のガラスなんですね、性質としては。昔から唐津焼の朝鮮唐津とかも流れているじゃないですか。あとは伊賀焼の灰釉とか、要は釉薬って流れているものなんですよ。
有田とかは染付とか絵を描くので、流れないように流れないようにって調合して、流れてしまったら調合の失敗だみたいに言われたりするんですけど、自分は唐津焼やそういう釉薬の流れたものが昔からキレイだなと思っていて。流れ方次第なので苦労はしているんですが、青磁の流れた表情を作ろうと思って、やっていること自体は特別新しいことじゃないんですけど、伝え方や捉え方は面白いと思いました。
全国的にみると流れた作品を作っている作家さんもいるんですね。でもこの作り方って歩留まりが悪くて、だいたい最初の頃とか商品にならなくて今も5割くらいで絶対量産はできないので、自分みたいな個人の作家じゃないとできない表現なんで面白いですね。


― その考え方、いいですね。作品をみていて素材の良さを引き出す感覚について興味深く感じます。何にどう影響を受けていると思いますか? そのイマジネーションはどこからきているか教えてください。 ―

作品はとにかく素材がよく見えるように考えています。焼き物を始めたときにいちばん好きだったのが釉薬で、その釉薬と素材の掛け合わせも質感が面白いので土物もいろいろ作っています。素材感も、磁器でやるんだったら白磁よりも青磁の青さがキレイだと思っていたんですね。SHIZUKUシリーズは青磁の釉薬を研究する中で、より青磁がきれいになるのを研究しました。そうすると厚くかけた方がキレイなんですね。厚くかけると、普通ちぢれるんですけど、これをできるまで時間がかかりました。
イマジネーションは、たとえば油絵を観るときや水彩画を観るとき、建築でもコンクリートや木材などテクスチャー自体の質感に興味があると思います。自分は理系なので、研究的なものが向いていますね。陶芸の風合いは理化学的なものが大きい。深まれば、再現性も大きくなります。

 

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▲西さんの釉薬ノート パターンが何冊にも渡り書き記されています

 

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― なるほどですね。その 他に西さんの作品を支えているものはなんですか?HPで拝見しました轆轤の技術の習得についても詳しく教えてください。―

轆轤の技術は、窯業大学の助手時代から3年半ほど勉強会に通って有田の奥川俊右衛門先生に教えてもらいました。奥川俊右衛門先生は、有田の有名な人間国宝の井上萬二先生が師事していた奥川忠右衛門さんの内弟子にあたる方です。
轆轤のひき方は指の当て方や手の位置が異なったりといろいろありますが、有田はへらを使って形を作っていくのが特徴です。独立するまでは轆轤で飯碗とハマをひたすら繰り返して練習する日々で、陶芸教室でのバイトと陶芸の勉強の毎日でした。
あとは、好奇心旺盛なところですかね。普段からどうやってつくっているんだろう、どういう作り方をしているんだろうってものを見ています。自分よりもいいものを作っているのをみると悔しいし、やられたなぁという気持ちになりますよ。とくに同世代ですかね。いいものをみると悔しくなり、そういう部分が刺激になっていますね。

 

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西 隆行(にし たかゆき) 陶芸家

1984年福岡県生まれ。福岡大学工学部建築学科卒業後、大手工務店に入社し外構設計の仕事に就くも生業としての違和感を感じて陶芸の道へ進む。2009年4月に有田窯業大学校専門課程陶磁器科入学。卒業後、有田窯業大学校の助手業の傍ら商品を流通。色の表現に個性があり、若手陶芸家として注目を集めている。