Interview with a leading creator vol.11
Souun Takeda/Calligrapher
トップクリエイター・インタビュー vol.11
武田双雲(書道家)
 
Photo_Yasuhiko Roppongi/Text&Edit_Nao Omori
 
 
日本各地に連綿と受け継がれるモノづくりの伝統と技術。REAL JAPAN PROJECTでは、それを日本のみならず世界へ向けて発信するべくさまざまな活動を行っています。ここでは、国内はもとより、世界を舞台に第一線で活躍をされているクリエイターの方々をお招きし、ご自身の活動や日本のモノづくりについてインタビュー。第11回目のゲストは、躍動的かつ体温の感じられる書で多くの人々を魅了する、書道家・武田双雲さんです。映画・ドラマの題字やロゴ、さまざまなアーティストとのコラボレーションなど、多岐にわたるフィールドで独創的な創作活動を展開。独自の視点から見つめた書の面白さ、豊かな感性によって導かれる世界感などをお伺いいたしました。
 
――3歳の頃から書に触れられていたそうですが、「書道家になる」ということは全く考えられていなかったそうですね。武田さんはNTTに勤務された後、書道家に転身されていらっしゃいますが、それまで書はどのような存在だったのでしょう。
 
“趣味”かな。おじいちゃんになっても、やっていそうな気がしていましたよ。母が書道家ではありましたが、強制されることもなかったですし、習い事でもない。暇なときにちょっとやる、クロスワードパズルのようなものだったと思いますね。小・中学校でよくやる書道コンクールなどでも、入賞したことはあるんだけどトップを獲った事がないんです。というか、コンクールの審査員とかやっているくせに、むかしからコンクールに応募することに全く興味がなくて、腕を試したいとも思ったことがないんですよ。
 
――書道家になられてから、書との関係は変わってきましたか。
 
もちろん。いまは”魔法の杖”のような存在です。個人としてはなんでもないひとりの人間なのに、書が入ることによって、自分が遠くまで飛んでいける気がする。魔法にかけられたようにね。
 
――作品としての書を書くとき、その言葉とどのように向き合っていらっしゃるのかお聞かせください。
 
言葉がもつ力や強さ、想像以上の多面性に、常に感動しているんです。言葉は人を喜ばせることもできれば傷つけることもできる。同じ言葉でも、伝わり方や受け取り方でぜんぜん違う意味となる。こんなにも多様であり多面性をもっている言葉とは、一生遊んでいきたいと思っています。2月2日に発売された『こころをつよくすることば』(日本出版社)も言葉遊びの本になっているんですね。例えば”息”という漢字は”自”と”心”の組み合わせ。息って呼吸のことなのに、”自分の心”と書いているなんて、すごくかっこいいと思う。
 
――漢字の成り立ちによって、受ける印象が変わってきます。
 
言葉を並べただけでも変わるんですよ。アントニオ猪木さんってあんなに激しいビンタを打っているけど、「元気だせ」って言ったことがない。「元気ですか?」って、聞いているし、しかも丁寧語。元気をだしてもらうのに「ですか?」を入れたことの天才性を感じますよね。矢沢永吉さんだって「Be happy」ではなく「Are you happy?」って聞いている。猪木さんや矢沢さんのような豪快なお兄さんたちが、実は言葉を慎重に選んでいるんです。
 
――毎年年末に1年を振り返り世相を表現する漢字一文字「今年の漢字」が発表されていますが、武田さんが考える、「いまの日本のみんなが心に抱いていたら、きっと幸せになれる漢字一文字」を教えてください。
 
“楽”っていう漢字ですね。日本のダメな部分も、これから伸びていく部分も、楽しんでいこうって。不景気だから楽しもう、これから起こることすべてを含んだ未来を楽しもう、できるだけ楽しい心でやっていこうって思うんです。ワクワクしていくことを目指していけば、モチベーションもあがるし、人間関係だってよくなっていくしね。
 
――武田さんご自身が大切にされているのも”楽”という漢字ですか。
 
そうですね、楽しむということは僕の人生の最大のテーマです。でもね、楽しむって意外と難しいんですよ。「楽しまなきゃ」って思ったらもうダメ。かなり上手になりましたけどね。幸せ力は訓練です。幸せも成功も人間関係も、書道だって、すべて訓練。訓練が超楽しければいいわけでしょ。「だって成長するんだもん。楽しくて楽しくてしょうがない」みたいな。嫌な漢字は入っていないのに、”訓練”って聞くとネガティブなイメージになってしまう。訓練を楽しいととるか、辛いととるかは、その人の体験によってくるんです。これまで読んできた本や、両親がどんなシチュエーションで”訓練”という言葉を使ってきたか、とかね。”義務”だってそうです。”義”と”務”の漢字で構成されていて、本来ならば嬉しいと感じられるはずなんですよ。「義務最高」「義務ってなかなか与えられないじゃん。ありがたいよ」って思うとか。
 
――そう思えるようになることも”訓練”なんでしょうね。ネガティブなイメージとして受け取らないための、ワインポイントアドバイスをお願いいたします。
 
日々の生活の中で起こる小さな障害を、楽しさに変えていくことかな。雨が降ったときは雨を楽しもうとか、仕事がうまくいかないときは「この壁は楽しめるな」って思うとか。トラブルだらけでしょ、人生って。出掛けようと思ったら子どものオムツを換えなきゃいけなくなってしまったとか、全然スケジュール通りにいかなくて、予想もしないことが常に起こる。だから小さなトラブルをどれだけ楽しめるか。そうしたら大きなトラブルだって、きっと楽しめるようになると思います。僕は毎日楽しくてしょうがないんだけど、「楽しまなきゃ」になったら危険ですよね。楽しくなくてもいいんだけど、楽しめたらいいよね、くらいでいいんです。あとね、ネガティブな人をみて「前向きにいけよ」っていう人がよくいるでしょ。あれってネガティブな人をダメだと思っているわけで、その時点でネガティブなんだから、「ポジティブにいこうよ」って言っている人ほどネガティブな人はいないんです。なんか強引系。もしネガティブな人がいたら「なるほど。そういう考えもあるんだ。新しいね!」くらいがいいんじゃないですかね。
 
――映画のタイトルや企業のロゴ、商品の名前などは、どんな想いで書かれていらっしゃいますか。
 
みんなの心を動かすにはどうすればいいか、ということを考えながら書いています。相手の要望を捉え、かつ要望以上のモノはつくりたいと思う。そしてそこに、武田双雲にしかできない表現を入れていく。みなさん僕の個性を気に入ってくださっているから、僕にしかできない書を書いています。依頼された言葉との相乗効果によって、僕自身も高まるし、新しい自分の世界も拓けてくる。異質なモノが入ることよって、これまで世の中になかったコラボレーションが生まれるんです。僕にとってはすべてコラボなんですよ。取材だって編集者、ライターさん、カメラマンさんとのコラボ、個展をやるにしてもデパートとのコラボ、書にしたって筆屋さんとのコラボ、アーティストの方々とのお仕事も同じ。だから人生全コラボなんです。
 
――さまざまな分野のアーティストと書道パフォーマンスなどもされていらっしゃいますが、おひとりで書を書かれているときとの違いはあるのでしょうか。
 
一緒ですね。ただ舞台になると、書いている姿まで意識しています。その姿を含めてのパフォーマンスなので。でも、それくらいの違いかな。目的やコンセプトは同じです。与えられた環境の中で、筆や墨の良さを最大限引き出して書を書く。
 
――言葉の意味をも引き出す。
 
引き出される、という感覚かな。何を伝えたいか、そのメッセージをいかにして伝えるか、ということがとても大切。どんなスタンスで、どれくらいの強さで、どれくらいの優しさで、どれくらいの厳しさをだしたいのか、怒りが入っているのか、包み込むような温もりなのか、それによって筆を入れる角度や墨の選び方も変わってくる。刺々しい書を書くときもあれば、ふんわりとした可愛らしい書や絶世の美女のような書を書くときもあるし、それは毎回違います。その時のご縁ですね。
 
――ご縁によって生まれた書、すべてが新鮮で新しいのですね。さて、そんな書は長い歴史をもっていますが、歴史の積み重ねによる伝統に対してのお考えを教えてください。
 
僕は伝統好きでして……。工芸品ですと、硯や南部鉄器の職人がつくった水入れなども愛用しています。産地やブランド、高い安いといった価格にはこだわらず、直感で選んでいますね。かといって古いものが好きというわけではないんです。ガードレールひとつとってみても、カタチ、素材、色の変化といった歴史があるわけでしょ。それを誰かが発案し続けてきたわけで、いろんな思いやりや優しさが積み重なっていまの姿がある。どんなものでも日々進化をし、すべてが伝統となっているんです。積み重ねられてきた技術や心が、好きなんですよね。電子マネーのおかげでお会計が楽になったり、冷蔵庫の容量が大きくなったり、車の燃費がよくなったり、優しさのリレーが伝統になっている。これはすごいことなんです。それにね、食べ物だって豊富にあるし、公共サービスの力は素晴らしいし、飛行機もインターネットもあるし、こんな時代がくるなんて昔の人の想像を越えているんじゃないかな。世の中の99%はありがたいことで占められている。みんなが当たり前だと感じている毎日がいかにすごいことか、というこの感動を伝えたくてしょうがないんだけどね。
 
――そうやってひとつひとつに「ありがとう」という気持ちをもって接していけば、日々の暮らしに改めて感謝することができます。そんな武田さんのお気持ちが6月9日を”世界感謝の日”にするためのプロジェクト「感謝69」の活動へと繋がっているのですね。
 
これまで僕がひとりで叫び続けてきて4年目くらい。今年、藤沢市が全面バックアップをしてくれることになって、江ノ島を感謝のシンボルタワーにしようと思っているんです。その日は感謝の手紙を言葉にしてポストに投函するとか、メッセージを江ノ電に貼ってもらうとか、湘南を舞台にありがとうのイベントを開催し、海外の提携都市でも同時にイベントを行ってもらいたいんです。そして10年後にはクリスマスを越えるイベントに成長しているという。だから6月9日は”世界感謝の日”として世界中でプレゼント交換が行われる日。政治家同士も感謝をし合い、そこでは議論すらしないんです。クリスマスやお正月を越える日を、僕はつくりたい。
 
――なぜ6月9日なのですか。
 
数字の6は”理”、9はインドで”カオス”を表しています。ですから、6と9で森羅万象なんですね。この相反するものが繋がっていて、数字の○をくっつけると無限大の記号になるでしょ。それぞれの個性をもち、それぞれ異なる環境にいる人たちが、手と手を取り合う日という意味なんです。そしてこの日は僕の誕生日(笑)。このプロジェクトをスタートさせてよかったと思うのが、”マイナス”は何ひとつないな、ということ。「ありがとう」ってネガティブを打ち消すんですよね。仲の悪い二人がいたとして、6月9日だけはしょうがないから「ありがとう」って言い合う。すごくムカついていたとしても「ありがとう」って言われたら、それ以上ムカつけなくなっちゃう。だから、すごく不思議な言葉。「ありがとう」と言われた国とは戦争もしにくいだろうし、火消みたいになりますよね。「ありがとう」が先でいいと思うんです。「ありがとう」を探し出す。人って言葉によって集める情報が違うから、よく分からなくても先に「ありがとう」って言っておくと、「ガードレールが守っていてくれていたんだ」とか、「コンビニのおにぎりが美味しくなっている」とか、「ありがとう」ばかり集めるようになる。でも文句ばかり言っている人って、不満ばかり集めてしまうんですね。「ありがとう」に理由なんてなくていい。勝手に探すんだから。”メガネの掛け替え”って僕は言っているんですけど、みんな”不満メガネ”を掛けているから、6月9日だけは”感謝メガネ”に掛け替える。きっと世の中がバラ色に見えると思います。おせっかいかな、と思って綺麗事をいうのはけっこうきついんですよ。アンニュイなことを言っていた方がかっこよかったりするじゃない。心の余裕なんじゃないかな、とは思いますけどね。綺麗事って思ってしまう時点で、心に余裕がない。でもね、しつこく言い続けていると「双雲のことが最近ようやく好きになりました」という人もでてきてくれる(笑)。”綺麗事”って面白いんですよね。ほんとは大事なことなんだけど、どうしてマイナスに捉えてしまうんだろう。「綺麗事ばかりいいやがって」という意見に対しても、いいじゃないかって。「ありがとうございます。綺麗な事しか言えないんです」ってね。
 
――”綺麗事”、実はとても素敵な言葉だったんですね。
 
“支配”という言葉も僕は好きなんです。”支えて配る”って、かっこいいでしょ。支配者って、支えて配る人。だから僕は支配者になりたいですもん。あとね、”優柔不断”って言葉もすごく好き。”優柔不断な人”って、イメージは悪いですよね。でも、優しくて、柔らかくて、すぐに人を断じない。決断力がある人がいいって誰が決めたんでしょうね。断じないということは、決断を待てる人ってこと。
 
――ネガティブな印象を抱いてしまいがちな言葉でも、一文字一文字、漢字の意味を捉えていくと、ポジティブな印象に変わるんですね。”優柔不断な支配者”とか、最高です(笑)。
 
言葉づらとしては最悪だけどね(笑)。『優柔不断な支配者』ってタイトルの本をみたら、逆に興味湧きますよね。気ばっかり遣って、物事を決められないすごいダメダメな王様なんだけど、国民みんなが支え合い配り合うシステムをつくっていって、国民と王様が一緒に素晴らしい国をつくっていく物語。……あ、超面白くなった。絵本でつくろう!
 
――”優柔不断”な方々の共感を集めそうですね。絵本、楽しみにしています。ありがとうございました。
 
 
【プロフィール】
武田双雲
Souun Takeda
 
昭和50年熊本市生まれ。3歳から母である書家・武田双葉に師事。東京理科大学理工学部卒業後、NTTに勤務を経て、2001年1月より書道家として湘南で創作活動を始める。音楽家、彫刻家などさまざまなアーティストとのコラボレーション、斬新な個展など、独自の創作活動で注目を集める。2003年中国上海美術館より「龍華翠褒賞」を授与。同年イタリア・フィレンツェにて「コスタンツァ・メディチ家芸術褒賞」を受賞。2005年伊勢神宮に献書。 映画「春の雪」、「北の零年」、NHK大河ドラマ「天地人」など、愛知万博「愛・地球博」のグローバルハウス各ブースほか、数多くの題字を手がける。また、フジロックフェスティバル、ロシア、スイスでのイベントなど国内・海外で多くのパフォーマンス書道を行っている。新著に『こころをつよくすることば』(日本出版社)など著書多数。
 
公式ホームページ http://www.souun.net/