Interview with a leading creator vol.13
Tomomi Nakajima /Art director
トップクリエイター・インタビュー vol.13
中島 知美(アートディレクター)
 
Text&Edit_Shigekazu Ohno(lefthands)
 
 
日本各地に連綿と受け継がれるモノづくりの伝統と技術。REAL JAPAN PROJECTでは、それを日本のみならず世界へ向けて発信するべく、さまざまな活動を行っています。このインタビューでは、国内はもとより世界を舞台に第一線で活躍するクリエイターの方々をお招きし、ご本人の活動に絡めて、日本のモノづくりについて、お話を伺います。
第13回目のゲストは、日本のファッション界を代表するアートディレクターの一人、ストイックの中島知美さん。「東京にいながら、世界を相手に仕事をする」をモットーに、さまざまなファッションイベントやグラフィックデザイン、3Dデザイン、映像制作、プロダクトデザイン、WEBデザイン、建築プロデュースなどを手掛けられています。
 
 
――世界でご活躍されていらっしゃる中島さんですが、日本人としてのアイデンティティをどんなときに意識されますか?
 
分かりやすいところでいうと、ものを真っ直ぐにつくるとか、角をきっちり収めるといった感性が、自分の日本人としてのDNAに組み込まれていると思います。国によっては、「結果オーライ」的な人も多かったりしますが、日本人には、生まれ持った正確なスケール感覚のようなものがある気がします。例えば昔、福井県で漆器をつくる方とお話しをする機会があったのですが、重箱をつくるようなとき、「自分たちは日本人だから、角を限りなくきっちり90度につくることができる」とおっしゃられていたんです。日本人の感性には、「きれい」に考えて、「きれい」につくるというプログラムが、先天的に組み込まれているのかもしれませんね。
 
――そうした感性は、どんなところからもたらされるものだと思いますか?
 
日本には、美しい四季があります。それを感じとる感受性も、やはりDNAに組み込まれているものだと思います。ファッションだけの話でなく、日本人は例えば食べ物や設えにおいても、季節を意識しながら選ぶことができるんですね。季節ごとの色遣いにも、繊細な感性が垣間見られます。それは、言葉においても同じ。「季語」を使う文化も、日本ならではのものではないでしょうか。そうした中で、「美しい」の基準となる審美眼が、日本人の中に自然と培われていったのでしょう。
 
――ご自身のクリエイティブも、やはり日本的なものとして捉えていらっしゃいますか?
 
私は特に2000年頃から、ファッションビジュアルをつくるときに、なるべく西洋人のモデルを使わないようにしてしてきたんです。日本人だけというよりは、もう少し広く、”アジア人によるアジアの広告をつくりたい”という思いがありました。でも当初は、いくら提案しても、クライアントから却下されることがほとんどでしたね。顔がフラットで、腰の位置が低い、手足の長さが短いとかいった理由で、どうしても西洋人モデルの方が高く評価されてしまう。でも、日本ならではの、そして東洋ならではのオリエンタルな美しさというものを、きちっと欧米に紹介したいという思いは、いまも昔も変わりません。その甲斐あって、最近では雑誌の表紙にも、日本人モデルがどんどん増えていますよね。海外の友人たちからも、「日本人モデルの方が素敵よ」といわれます。特に中国の大陸系のモデルたちは、スタイルの面でもまるで引けをとりません。アジア系の女の子たちが「お洒落で可愛い」という評価も、着実に浸透してきていますしね。
 
――ファッションをはじめとする”日本のものづくりの強さや魅力”があるとすれば、それはどんなところに見出されるものでしょう?
 
これまで台湾版と香港版の『VOGUE』を手掛けてきた中で、東京コレクション系のモードブランドを多く扱ってきました。そのときに思ったのですが、日本のブランドには、何というか、独特の匂いがある。カッティングやフォルムが、欧米ブランドとはどこか違うんです。セクシーさはあまりない。体の線を強調する服じゃないから。かといって、カワイイ系とも違う。うまくいえませんが、日本独特のモード感があるんです。それは海外の人の目にも、顕著な特徴として映っているといいます。
 
例えば中東に行くと、実はツモリチサトがすごくウケていて、ショップもありました。体型でいうと、ふくよかな人が多いというのもあるのでしょうが、デイリーに気軽に着れて、お洒落に見える服ということでマッチしたのでしょう。日本の服は、体の線を強調するセクシー感、ゴージャス感が少ない代わりに、どんな体型の人も素敵に見せることができるのかもしれません。
 
それから、いま私がクリエイティヴを手掛けているのは、大手アパレルのドメスティック・ブランドです。派手さはないけれど、デイリーにお洒落をして素敵に見せたい人が着る服。海外ではまだ認知度が低いけれども、これをプロモーションしていくきっかけづくりをお手伝いさせてもらっています。その仕事を通じて、何よりも驚かされたのが、日本の伝統的な技と精神に根差した、丁寧なものづくり。例えばブラウスひとつにしても、デザイナー、パタンナーをはじめ、さまざまな工場で、たくさんの人の手を介してつくり出されるのに、その影には値段を抑えるための企業努力がある。安かろう悪かろうじゃない、最高品質をどう適正価格で出すかに、真剣に取り組んでいる人たちがいるんです。実際のものづくり以外のところにも、日本のものづくりの強さを発見しました。
 
――中島さんにとっての仕事のモチベーションとは、何になるのでしょう?
 
私は、ちゃんと会社勤めをしたことがないんです。グラフィックデザインも、誰かについて修行したわけではないし。ただ単に、ファッションが好きなだけというのが、ずっと変わらないモチベーションですね。だから、常にブートストラッパー(=他者に頼らず、自力でなんとかする、の意)でありたいと思ってきました。つねに自分で工夫を重ね、自分で努力し、開拓し、仕事をしていきたいから。近道してもいいのに、何年かかるか分からないのに、誰も踏み込んでいない雪の平原に踏み込んでいきたいという願望があるんです。その代わり、付いてきてくれる人、サポーターは決して裏切りません。兵士を一人も脱落者にせず、連れて行きます。ストイックは常に進化、変化を続けています。もともとはグラフィックデザインでしたが、いまは世の中でデザインできるものはとりあえずトライします。ただし、相手とフィーリングが合わなければ、いくら積まれても断ります。その仕事が、本当に自分だけに求められているのかどうか、要求されている案件自体から、私の心に聞こえてくるものがあるんです。響くものがあれば、ギャラが少なくても引き受けてきましたし、逆に私たちでなくてもやれるような仕事に思えたら、そのときはすぐに断るようにしています。
 
――いま手掛けられているBRAND GUARDIANSプロジェクトは、WEB媒体のプロデュースから、コンテンツとなるムービーの制作、SNSでの情報発信まで、まさにトータルで関わる新しい試みとなっていますね?
 
BRAND GUARDIANS(http://www.brandguardians.asia/)の母体となるJAFIC(一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会)は、319社の参加企業のうち約200社がアパレル企業となる、日本最大のファッション団体です。企業ブランドだから、派手なプロモーション展開もないし、ショーを開催するブランドも少ない。でもその代わり、ものづくりに対して積み上げてきた、素晴らしい技術と歴史があるんです。とはいえ残念ながら、デジタルの時代にあっても、発信するプラットフォームがまだ十分に整備されていなかったから、せっかくいいものをつくっているのに、世界に名前が出ていかなかったんです。いまでは、誰もがWEBから情報を仕入れるようになっているのに、多くのブランドはそれをうまく活用しきれていない現状がありました。
 
私たちは、それを一気に変えるというのは無理だとしても、ひとつひとつクリアしていこうと提案しました。まずは――ということで、理事会の方々にSNSとはどんなものかや、活用するプロモーションの施策について説明しました。外資系ブランドやセレクトショップが、どんな風にSNSを使っているかや、海外の成功事例についてもレポートしました。幸い、どのブランドも危機感を持っていたから、すぐに共感を得ることができました。
 
それから、いまファッション業界が、若者たちの間でオーラを失ってきている問題もあります。例えば、それまでファッション業界を目指すといえば、デザイナーやパタンナーが花形でしたが、最近はファッション業界とは無縁だったはずの法学部の学生が、大手アパレルに総務希望で就職活動を行うというような現実があるんです。全体のパイが増えないと、明るい未来も見えてこない。そこで、若者に憧れてもらえるにはどうしたらいいかを考えて、秋から公開が始まる、ファッション業界を舞台にしたインターネットムービーというコンテンツが企画されました。
 
このBRAND GUARDIANSを通じて、まずは大きな市場となるアジアに、日本にはこんなにいいブランドがたくさんあるということをアピールしたいと思います。百貨店を利用するときも、ブランド指名で来店してもらえるように。そのためには、コンテンツとしての話題性を自分たちでつくり出すことを始めなければ。これからは発信の仕方も、発信するためのメディアも自分たちでつくるのが、新しい挑戦だと思っています。
 
――中島さんはこれまで、どのような方法で世界を相手に仕事をされてきたのでしょう?
 
私は90年代に2年間パリに住んだことがあるんです。アートディレクターのマーク・アスコリに弟子入りしたくて押し掛けたのがきっかけで。もちろん、断られてしまいましたが。当時、ファッションの仕事をするなら、一度はヨーロッパかニューヨークで修行を積むというのが常だったんですね。でもビザの問題で、遅かれ早かれ帰ってくる。そうなると、向こうで頑張った年月って何だったんだろう? みたいな人も多かったんです。そのとき、私は「なぜ自分たちが行くんだろう? 向こうに来てもらえばいいんだ」と閃いたんです。そのために、まずは自分たちのアイデンティティを世界に知らしめたいと。
 
そこで覚悟を決めて、東京を拠点にして、海外の一流ブランドやクリエイターと仕事をする方法を考えました。お陰でいま、実際にそうなっています。中東、ヨーロッパ、アジア――けっこう世界を股にかけて仕事ができるものなんですね。
 
海外を観に行くことは、もちろん大事。スタッフにもずっとそういっています。見て触れて感じる大切さというのは、これからもなくなりません。でも海外の仕事をすることは、東京を拠点にしてもできるよ、と自信を持って伝えています。いまはもっと、アジアのカルチャーを世界に出すメディアをつくりたいと思っています。日本だけでない、例えば中国や韓国、台湾にも香港にもいいクリエイターはいるので、これからもっといっしょに仕事ができたらと思っています。
 
――最後に、日本のものづくりをもっと広く、海外にまで発信していくためには、どんな課題や方法があるか、お聞かせ願えますでしょうか?
 
伝説をつくりましょう。といっても、大袈裟な話じゃないんです。どんなものにも必ず、職人のこだわり、ものづくりの信条、哲学といったものがあるはず。マグカップひとつとっても、デザインの向こう側にある背景や、どんな人がどんな思いでつくったかを知ると、もっと愛せるように、もっと大切に使えるようになりますよね。ファーストファッションについては、あっていいものとは思います。でも、長く使われずに、あっという間にゴミになって捨てられてしまうというのは、何とも悲しいじゃないですか。
 
一方で、例えばエルメスのバッグが古くなったからといって、捨ててしまうような人はめったにいません。たとえ顔は見えなくても、手で丁寧に縫っているんだろうなとか、こだわりや情熱がものの中に見えるなら、きっと愛着が湧いて、直しながら大切に使い続けるはず。ひとりでに、勝手にできるものなどないんです。そこにこめられた想い、あるいはつくる人や制作現場を伝える映像やストーリーなどのコンテンツを、とにかく発信し続けることが大切だと思います。例えばマグカップが欠けて使えなくなったら、今度は花を生けて飾ってもらえるように――。REALJAPANPROJECTが、背景の伝説を発信するための組織やメディアに育つといいですね。
 
【プロフィール】
中島知美
Tomomi Nakajima
1991年、フォトグラファーの川口賢典とともにストイックを設立。ファッション界のアートディレクターにおける第一人者として、伊勢丹、ANNA SUI、OPAQUE、SHU UEMURA、 COLLECT POINTなどの広告ヴィジュアルを手掛ける。MISSONIの店舗デザイン、国際家具見本市ミラノ・サローネにおける〈スワロフスキー クリスタル パレス2007〉のシャンデリア作品を発表するなど、その表現の舞台は多方面に及ぶ。海外のクリエイターとの取り組みも多く、これまで広告キャンペーンを通じて、リチャード・アヴェドン、マリオ・テスティーノ、マリオ・ソレンティをはじめとする著名フォトグラファーと協働している。またクウェート、ドーハ、ドバイ、シリアなど中東でスーパーラグジュアリー・コンセプトストアを展開するVILA MODAとクリエイティブ・ディレクター契約を結び、コンセプトデザインからストアデザインまでを広く手掛けている。2012年からは、JAFIC(一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会)が運営するWEBサイト〈BRAND GUARDIANS〉の企画制作に携わる。
 
ブランドガーディアンズ ホームページ  http://www.brandguardians.asia/
ストイック公式ホームページ  http://www.stoique.net/
 
 
 

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2012年10月1日(月)?12月24日毎週月曜更新
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