Interview with a leading creator vol.15
Junji Tanigawa /Space Composer
トップクリエイター・インタビュー vol.15
谷川じゅんじ(スペースコンポーザー)
 
 
日本各地に連綿と受け継がれるモノづくりの伝統と技術。REAL JAPAN PROJECTでは、それを日本のみならず世界へ向けて発信するべく、さまざまな活動を行っています。このインタビューでは、国内はもとより世界を舞台に第一線で活躍をされているクリエイターの方々をお招きし、ご本人の活動に絡めて、日本のモノづくりについてお話を伺います。
今回のゲストは、スペースコンポーザーとして世界を股にかけて活躍するJTQ代表の谷川じゅんじさん。これまでも経済通産省の支援するJAPAN BRAND展のプロデュースなどを手掛けてきた谷川さんは、グローバルな見地から日本の伝統的なものづくりの可能性を見据えています。
――谷川さんが主宰されるJTQでは、空間プロデュースだけでなく製品プロデュースも
手掛けていますね?
2011年に、新潟燕三条〈玉川堂〉とのコラボレーションで、フランスが誇るシャンパーニュのグランメゾン〈KRUG〉のための「クリュッグ鎚起銅器ボトルクーラー」をプロデュースしました。その次の取り組みとして、今年は京都の老舗〈竹又中川竹材店〉が籠編みのアウターを、また富山の高岡銅器のつくり手である〈能作〉が鏡筒のインナーを手掛けるダブルコラボレーションで、「クリュッグ バンブーボトルバスケット」をプロデュースしました。
――〈KRUG〉のような海外のトップブランドが認める日本のものづくりの魅力とは、
何だと思いますか?
日本のものづくりって、伝統工芸の製品も、大手メーカーがつくるアノニマスな大量生産品も、みんな軸足が一緒だなと思うところがあるんです。とにかく機能性を掘り下げて、磨き上げて、収斂させるという徹底したものづくりのフィロソフィーみたいなものがあるんですよね。ファッションもプロダクトもすべてに共通して、ある種の奥行きのある仕事の積み重ねを感じます。「Made in Japan」の製品は、どれも世界的に見たらほとんど例外なく品質が高い。自分たちの中に脈々と生き続けている感覚と感性が、何かを生み出すといったときに、日本ならではの個性、あるいは固有性として表れるんだと思います。
――谷川さんのおっしゃる、「日本ならではの個性、あるいは固有性」というものは、どのようにして育まれてきたのでしょう?
日本は、世界でも最も古い国のひとつです。720年の日本最古の歴史書『日本書紀』を国家成立の基点と見たとき、建国から1,300年近い歴史があります。比べると、デンマークはおよそ1,000年、イギリスはおよそ800年。長い歴史に育まれた日本のものづくり文化のすごさは、日本人の誰もが、職人でなくともこれを自然と発揮できるところにあると思います。非言語領域におけるコミュニケーション力の賜物なのかもしれませんね。歴史を通じて、ムードというか雰囲気で受け継がれてきたもの、みたいな。あと、長く使うことで魅力が生まれる経年変化のポテンシャルを持つものづくりが、根底にあると思います。長く使われてきたもの自体が、教えてくれることっていうのもあると思うんです。
――日本のものづくりに特徴的な価値観があるとしたら、それはどんなものになるのでしょう?
そのものがどのようにして生まれたかのコンテクストが、大切なのかもしれませんね。例えば、日本ではものは壊れないのが当たり前じゃないですか。海外では、クルマも壊れるのが当たり前だから、日本の壊れないプロダクトにみんな舌を巻きますよ。一方で、壊れてしまったものを再生する技術や伝統も、日本にはすごいものがあります。陶磁器を直す金継ぎなどは、それ自体がアーティスティックな価値も持っています。嗜好の世界では、わざと壊して物語を与える価値観なんかもある。直したことが分かるように直して新たな価値を与えると、新品を買うより高くなることもあります。もの自体よりも、ものづくりの精神や価値観を重んじる風潮は、日本独特のものなのかもしれませんね。
――日本人は、もともとものを大切に使う文化を持ってきましたね?
日本って、八百万(やおよろず)の国でしょ。いろんなものの中に魂を見出すんです。工場が竣工するときも、真っ先に神事を行います。自然と調和していく自然のリズムと合わせた工業システムが、いまもあったりします。陶芸は特に、大地の土を素材にするから、自然との結びつきが強いですよね。
――日本のものづくりにおいては、後継者不足などの問題もありますが、どう生き残りの道を
探ればいいのでしょう?
グローバルだ、インターナショナルだといいながら、ただ規格化され、量産を目指し生産性の高い経済合理的なものを求めてませんか。世界の市場を見渡して、そこにあるものに日本が日本らしく持っているものを掛け合わせて、価値を重ねていくことが大事だと思いますね。伝統の担い手である職人が、自ら革新に挑戦していくことが、唯一生き残る方法だと思います。僕の出会った職人さんたちは皆がいいます、「技術は難しいことに挑戦しないと決して磨かれない」と。ときにやり過ぎちゃうくらいのところから、新しいものが生まれるんです。日本のメゾンとフランスのメゾンの、伝統と技術のマリアージュから生まれた〈KRUG〉のボトルクーラーは、日本の職人技術の生き残りという問題に、ひとつの方向性を示す取り組みになったんじゃないでしょうか。
――谷川さんが「これはすごい!」と思った日本のプロダクトには、どんなものがありましたか?
例えば僕のiPhoneケース’otsuriki’ Collect of Japan #01 INDENは、バイク用のカスタムパーツメーカーとして有名な〈モリワキエンジニアリング〉が印伝とコラボレーションしてつくったもの。まさにバイクパーツと同じアルミニウム総削り出しで、4本のビスで固定するんですが、合わせがぴしゃっと寸分の狂いもないところなんか、ものが好きな人にとっては涙が出るくらい嬉しいですよね。
それと、新潟の諏訪田製作所がつくる爪切りは、世界最高の切れ味を持ちます。切れ味がいいから、切った爪が全然飛ばない。爪を切ってぱちんと音がするのは、実は切れ味が悪い証拠なんだそうです。刃立てがこんなにぴったり合う仕上げは、機械では決してできないもの。日本刀をつくる玉鋼という素材に目を付け、磨き上げ、爪切りに応用した情熱と技術には、見上げたものがあります。手にして、ちょっと怖くなる程の緊張感を与えるもののオーラも、たまらないですね。
――海外でいろいろとお仕事をされてきた目で見て、自分の日本人としてのアイデンティティをどんなときに認識されますか?
僕は子供の頃から剣道を続けていました。人を単に殺めるための技量を磨くのではなく、自己を磨きこころを整え精神を鍛錬する行為、これに剣の技が伴った時、その人の剣の道はかたちになる。守破離という言葉がありますが「師の教えを守り、己の努力で破り、新しいスタイルを確立する」という考え方です。美意識と様式が結び付く、日本独特の「道-どう-」という世界になるわけです。ひとつのことを探求していく精神性が私たちのDNAにはもともと根付いている。だから日本のものづくりは「ものづくり道」なんだと思います。何かひとつの専門領域を探求する精神性が、自分の中にも、そしてほかの誰の中にも、遺伝子的に息づいているんじゃないでしょうか。
それと同時に、いろいろな新しいものを受け入れられるオープンな感性も、日本人の強みとしてはありますよね。伝統工芸っていうスタイルがあるとすれば、それは枠ではなくて軸であると思います。この軸を掴みながら遠くにある新しい素養を掴み取る。いますでにある価値をもう一度見直し、なにかを「組み合わせる」ことに、これからのヒントがあるような気がしてなりません。答えはすべて自分たちのなかにあるのではないでしょうか。
――日本のものづくりの課題があるとすれば、それはどんなものになるのでしょうか?
日本は人口が減り続けてますよね? 本当の開国が始まる気がします。これからはもっと外の世界に目を向けて、自分たちの持っている知恵とものづくりの文化を、丁寧に発信できるようにしていきたいです。気付きのきっかけを得て、もう一階層高いものとして磨いていくのが、僕らの得意なことだから。
それと、ものは人の存在ありきでつくられる。いまは若い人が少なくなって、ものづくりの継承者が減っていく状況にあります。いま息づいているさまざまな技術や伝統が、継承者不足によって廃れてしまう危機にあるんです。自然淘汰は仕方がないかもしれませんが、我々が当たり前と思っているもので、人の役に立っている優れたものがいっぱいあるんです。それを遺し、伝えるためにも、日本の知恵がどんどん世界に出て行ってくれると嬉しいですね。
――最後に、日本のものづくりをもっと広く、海外にまで発信していくためには、どんな課題や方法があるか、お考えをお聞かせ願えますでしょうか?
海外の目利きが「いいね!」といってくれるようにしたいですね。セレクトショップのバイヤーとか、外の人を動かすことが大事だと思います。一方で、ものを売ること以外に、そのブランドをいいといってくれる人をもっと増やさないといけませんね。日本のつくり手たちは、まだまだ社交性が足りない。海外のグランメゾンはつねに世界中を旅して、ブランドのヒストリーと哲学を直接話して廻っています。それによって、ただのメーカーに留まらないブランドとして、そのブランドが持つ歴史文化の現代継承と発展が人々のこころを捉えてならないのです。メーカーはものを売るだけでいいかもしれませんが、ブランドは哲学によってお客さんと契約しているんです。形にならないものの価値をこれからどう提案できるか。その価値に気付くつくり手が、日本でももっと増えてくることを願っています。
Photo_Jun Miyashita Text & Edit_Shigekazu Ohno(lefthands)
【プロフィール】
谷川じゅんじ/スペースコンポーザー JTQ 株式会社代表
1965 年生まれ。2002年空間クリエイティブカンパニー・JTQを設立。「空間をメディアにしたメッセージの伝達」をテーマにイベント、エキシビジョン、インスタレーション、商空間開発など目的にあわせたコミュニケーションコンテクストを構築、デザインと機能の二面からクリエイティブ・ディレクションを行う。主な仕事に、KRUG bottle cooler(2011-2013)、平城遷都1300年祭記念薬師寺ひかり絵巻(2010)、パリルーブル宮装飾美術館 Kansei展(09)、グッドデザインエキスポ (07-11)、JAPAN BRAND EXHIBITION(07)、文化庁メディア芸術祭(05-08)、UT POP-UP!TYO(2013)などがある。DDA 大賞受賞、優秀賞受賞、奨励賞受賞、他入賞多数。