Interview with a leading creator vol.20
Hiroshi Morioka / Fashion Director
トップクリエイター・インタビュー
森岡弘(ファッションディレクター&スタイリスト)
 
photo_Isamu Ito(lefthands), text_Shoko Yamasho(lefthands)
 
 

今回のゲストは雑誌や広告のみならず、政治家のイメージ・コンサルティング、航空会社の制服デザイン、トークショーなども手がけるファッション・ディレクターの森岡弘さん。世界で開催されるファッションショーを見、サヴィル・ローなど職人技が牽引する服作りを知る森岡さんの視点で、日本のものづくりを語ってくれました。

–森岡さんは雑誌やカタログのスタイリングのみならず、デザインやコンサルティングまで幅広く活躍していますね。

僕は元々男性ファッション誌『メンズクラブ』の編集者だったんです。編集者の仕事は「これとこれを繋げたら、どんなことになるんだろう」ということを想像し、面白がることだと思うんです。だから、お声がけいただいたことに対して、新しいものと出会うことで起きる化学反応を楽しめるんですよね。「これは今までのスタイリストという枠の仕事内容ではないかもしれないけど、ご協力できるな」と考える。今でもマインド的には編集者だな、と自分で感じることがあります。提案する媒体によってさまざまなスタイルを提案できるのも自分ならでは。きっと編集者のベースがあるからですね。元々スタイリスト1本だったら、”自分のスタイル”というのをもっと強く押し出すような仕事をしていたんだと思います。

とはいえ勤めている間に編集長の首が4人もすげ替えられるという過渡期の『メンズクラブ』に在籍していたので、編集者時代はそこでいろんなことに頭を抱えて悶々としていました。世界のファッション界で何が起こっているのか、ミラノやパリにコレクションを見に行きたいのに、それが許されない環境でしたし。ここにいてできることはなんだろう、と考えたときに「あ、自分はスタイリスト的な動きが好きなんだな」と。そこで、会社を辞めて独立、幸運にもすぐ俳優の竹野内豊さんのスタイリストに抜擢され、順調なスタートが切れた……と思いきや、たった3ヶ月で急性骨髄性白血病で緊急入院。その後3年間を療養して過ごしました。完治して仕事を再開したら、ご縁があって『Pen』『Esquire Japan』『Navi』『GQ  Japan』のような、大人っぽいエンターテイメントなスタイルの雑誌から声をかけてもらい、今に至る、という感じですね。

 

Interview-with-a-leading-creator-vol.19-2.jpg

 

–そういう経験を経た森岡さんが、クリエイティブの上で大事にしていることはなんでしょうか。

いまやみんなに好かれるものを作るのは難しい、10人いたら5人に分かればいい、ということでしょうか。ネガティブな意見・嫌われることを怖がらないこと。日本は熟した社会なので、今はもう昔のようにマスでものが売れる時代ではありません。クリエイティブやそれを支える物作りの思想に共感した、愛してくれる人がいること。そして嘘をつかず真摯な姿勢を崩さず、愛してくれる人をふやすこと。つまり、強烈に色や匂いなど「個性」を持つことが大事です。

しっかり指名買いしてくれるもの、大好きでずっと使っていたいと思わせてくれる、そんなものづくりが求められていると思います。思想を持ったそういうものは高くていい、という人が徐々に増えてきているような気がします。高い安いではなく、物の価値に寄り添ったフェアプライスの時代が来ていますね。

–ファッションで世界を見ている森岡さんから見て、日本のものづくりはどうでしょうか。

日本のものづくりは本当に世界基準です。また物によっては超えている物も数多く見受けられます。ただ、まっすぐに見すぎて「遊び」が少ない。時には斜めや真裏から眺めたほうがいいですね。

例えばスーツを例に取ると、日本のオーダーメードの職人さんは縫い目も緻密だし、素晴らしい仕上がりです。ただ、きっちりしすぎているきらいがある。イタリアのスーツは、テンションがかかるところはゆるい縫い目にするなど、縫い方を変えている。要は、イタリアの場合、職人さんが縫っているときに着心地や仕上げの想像図が見えているんですよね。その結果、着て動いた時の体の動かしやすさに、差が出ます。これは服に対する歴史の差、文化の差が原因でもあるので仕方のないことでもありますが。

紳士服といえばロンドンのサヴィル・ローですが、ここでも「遊び心」があるかどうかが鍵となっています。各テーラーには”ハウススタイル”と呼ばれるスタイルがあり、例えばうちのスーツのボタンの位置は「ここ」っていうベストな位置が決まっています。しかしお洒落だからといってそれを1cmずらそうとすると、そのテーラーのスタイルではなくなるからと職人が断る店もある。そういう店には新しいファンがなかなか増えないですよね。売れているテーラーでは何か「遊び心」があっても、自分たちの幹の部分はきっちり残している。クオリティ・作り方は同じで、今の気分を取り入れたモダンなものを楽しみながら作ってみる。そんな「遊び心」は老舗の余裕だと思います。サヴィル・ローではないけれど、クリスチャン・ディオールなどもそうですよね。モードな服もあればクラシックな服もある。最近、南部鉄瓶をカラーバリエションやサイズを豊かにして売り出し、パリで人気が出ている、というのも感覚的には同じことかと思います。ああいう「遊び心」が日本は足りないんじゃないでしょうか。

Interview-with-a-leading-creator-vol.19-3.jpg

 

–今まで森岡さんが出会ったもので「これは海外に紹介したい」と思った日本のものはありますか?

江戸切子は本当に綺麗。でもなぜ黒がないんだろうとずっと思っていました。フィリップ・スタルクが黒のバカラを出したときに「あ、やっぱり黒のガラスっていいよね」と再認識しました。ああいう発想を見た時に、なんで日本人が考えつかなかったんだろうと、いささか悔しい(笑)。江戸切子もグラスである必要はなく、オブジェにしても美しいですよね。あと、西陣織のポケットチーフを知人がプロデュースしているんですが、色めも美しく存在感もあって、パーティにはもってこいなんです。そういう発想、他にもいろいろ応用できるんじゃないかと思います。和紙も壁紙にしたり、お皿にしたり、まだまだ可能性がありますね。

–これからの日本のものづくりに必要なことは何でしょう?

今までは職人さんがいつもと同じようにいいものを作っていればそれで売れました。だからディレクションの必要性があまりなかった。しかし今はディレクションを自らやらなくてはならない時代です。これからの時代はソフト(ディレクション)とハード(職人技)が一体化しているのが理想ですが、実は両方の目線を持つのはなかなか難しい。例えば肉を食べるのに白ワインは合わない、などの常識や既成概念をとっぱらって「気づき」を見つけることって思っている以上に難しいんですよね。

そのためにも、やはり意識して「遊び」の時間を作ることは大事なんじゃないでしょうか。オン・オフの切り替え、趣味への没頭、そういった時間を持つことが「気づき」に繋がるんじゃないかなと思います。

プロフィール

森岡弘(もりおかひろし)/ ファッションディレクター&スタイリスト

1958年大阪生まれ。早稲田大学教育学部教育学科卒業後、(株)婦人画報社入社[メンズクラブ 編集部配属]。1996年スタイリストとして独立後、(株)グローブ 設立。以来『Pen』『Esquire Japan』『GQ Japan 』『ENGINE』などを始めとする雑誌のほか、伊勢丹、ユナイテッド・アローズ、エストネーションなどの広告スタイリングを手がける。またスターフライヤーなどのウェアデザイン、ブランドのプロデュースやコンサルティング、俳優や文化人や政治家のスタイリング、講演やトークショー、本の出版と活躍の場を広げている。