Interview with a leading creator vol.3
Yugo Nakamura/Web Designer
 
トップクリエイター・インタビュー vol.3
中村勇吾(ウェブデザイナー)
 
 
text_Kayo Yabushita  edit_lefthands
 
日本各地に、連綿と受け継がれるものづくりの伝統。それを広く全国に、さらには世界に向けて発信しているREALJAPANPROJECTの活動には、著名人たちからも多くの賛同の声が寄せられています。
世界を舞台に活躍する第一線のクリエイターをお招きして、日本のものづくりをテーマにお話しをうかがうこのコーナー。第3回目のゲストは、めまぐるしく進化し続けるウェブの世界で、常に独創的なアイデアで人々を楽しませるウェブデザイナー、中村勇吾さんです。
 
――デザイナーの片山正通さんのエキシビションで発表されたスクリーンセーバーについて、まずお尋ねします。この映像を見た瞬間、2次元の世界なのに質感があって、ぐっと引き込まれたのですが、どういったイメージでつくられたのでしょうか?
 
中村:僕は、映像やウェブサイトをつくるとき、時間軸みたいなものをすごく意識しています。たとえばCMだと、30秒という枠の中で始まりと終わりがあって、オチがある。そうではなくて、ずっと常に動き続けていて、どの瞬間に見てもいい、いつやめてもいいんだけど、なんか見てしまう、そんなフォーマットでいろいろつくっているんですね。このスクリーンセーバーも、そのパターンでつくっていて、細い線がワンダーウォール(以下、WW)のロゴを描く動きを追ってみると、上のロゴと下の店舗写真がリンクしていて「どうなっているんだろう?」と、つい気になって見てしまう。いわゆるアンビエントな映像って、人間の体温に喩えると36.4度で平熱くらいなんですが、これはそれよりちょっと高めの37.2度くらいの微熱のイメージなんです。映像として何かを見るというよりは、なんかおもしろい現象が目の前で起こっていて、それを興味深く眺めているみたいな感じですね。
 
――ロゴを描く線の色は絶えず変化していますが、あれは下にある店舗写真の中の色と対応しているのでしょうか? 
 
中村:そうです。下の写真の中から色を取って、上の文字を描いています。以前、WWのサイトで作品のデータベースをつくったんですが、そのサイトを適当に並び替えてつくり始めたんですね。でもだんだんとリミックスが激しくなって、原型をとどめなくなってしまったんです。でも、もともとの写真を使うというアイデアは残っていて、色として使ってみたら、それがすごくよかった。片山さんの手掛けた仕事って全部カラフルだから、これはWWでしかできない形でやってみたという、後づけの理由もあるんですが(笑)。
 
――WWのウェブサイト自体もそうですが、中村さんのウェブデザインは、クライアントのニーズである使い勝手や機能性をきちんと構築しながらも、発見や遊び心が盛り込まれていて、ユーザーを驚かせる仕掛けがありますよね?
 
中村:クライアントにとって正しい目的はいろいろあると思いますが、それに対してこちらも正しいアプロ―チをしていくと、だいたい似たようなものしかできないんですね。やはり、何かを意図してデザインするということだけじゃなく、意図せずつくったもの、結果としてできてしまったものこそ、うまく活かしたいなと思っています。むしろ規定路線からちょっと脱したいという気持ちがいつもあって、ちょっとした思いつきみたいなものでも、あまりバカにしたくないんですよね。ウェブとか特に、今までにないものを目新しいとおもしろがる一方で、どうしてもクライアント仕事だと、いわゆる企業っぽい枠にはめようとしがちなんです。まだウェブの世界は歴史が浅いので、バリエーションがそんなにないのもあるんですが、たまたま出たものがすごくヒットしたら、みんなそれに倣って同じものを使いたがる現象がある。でもそれを参照元に限定するのはまだ早いでしょう?と。もう少しいろんな事例、いろんなやり方を実験すべき時期なんじゃないかなと思っています。
 
――そういった中村さんのクリエイティブにおいて、”日本”ということを意識することはありますか?
 
中村:地域性やヴァナキュラー性とかって、なにか主張して出すとか、探そうとすると逃げるものみたいな感じがあって。究極的に言えば、そういうのを全く抜きにして、純粋にいまやりたいことを自分の感覚でやっていると、日本人だからなにかが自然とにじみ出るだろうとは思っています。結果的に全く考えないでやったことにも、ディテール感とか、作業の精度とか、そこに込められた手の跡みたいな細やかさに、海外の人は日本っぽさを感じるみたいですから。もちろん工芸品もそうだろうと思うんですが、なにかに「込める」密度感みたいなもの、つくり方に接するスタンスみたいなところに”らしさ”が出るんじゃないでしょうか。
 
――この「REALJAPANPROJECT」で紹介している伝統的なものづくりにも、現代に合わせた新たな転換が求められていると思うのですが、同じくウェブの世界で新しい視点を常に模索している中村さんから、何かご提案をいただけますでしょうか?
 
中村:職人の手技とか技術みたいなものって、やっぱり長くやっているとどんどん深まっていくものだと思うんですよね。僕がやっているウェブの世界もやはり同じで、プログラミングだとかウェブデザインって、形にならないからわかりにくいんですが、共通して言えるのは、最初の技術というのは、やっているうちにだんだんと身に付いていって、いつのまにか呼吸するかのように自然とできるようになるものなんです。技術や手技を習得するという目的から開放されて自由になったら、次はおもしろいお題を与えてあげることで、思ってもみないものができる可能性があるかもしれない。技術的な発想のレベルが高いから、これ以上は無理だろうと我々が思い込んでいる固定概念を通り越して、実はもっと自由になんでもできるかもしれない。だから、ある職人技を活かして、たとえば車のプロジェクトに協力してもらうとか、そういった一見、無理難題に思えることをもっと提案してみるといいんじゃないかなと思いますね。
 
――実際に「REALJAPANPROJECT」でも、こけしづくりの技を使って、テーブルなどの家具をつくったりといった取り組みも紹介しています。
 
中村:職人さんたちが新しく転換していくためには、ちゃんと編集したり、リミックスする側の人が必要かもしれないですね。たとえば、ナガオカケンメイさんは、そういったことをされていると思うんですが、まだまだ絶対数が少ないですから。
 
――ではウェブデザイナーである中村さんから見て、「REALJAPANPROJECT」にはどのような可能性がありますでしょうか? 
 
中村:「進化したオンデマンド」って、できないかな? と思いますね。たとえば、Tシャツとかで、オンデマンド印刷で3日後には届くっていうサービスって実際にありますよね? そういったものって機械化されているからとても早いんですが、もっと時間軸を変えて、注文したら3カ月かかったりするんだけれど、そのつくっている経過とかも見れたりしながら、できていくのを楽しむような、今までのオーダーメイドシステムをリデザインするのって、おもしろいんじゃないかと思いますね。
 
――完成されたものをただ受け取るだけではなくて、職人さんが手づくりしている、その裏のストーリーや背景が見えると、もっと愛着も湧きますよね?
 
中村:今までは、閉じられた世界でやっていたことだと思うんですが、買い手もずっとつきあいながら、つくる過程を見たりだとか、そういうことって楽しいと思うんですよね。こういう工芸品って、やっぱり量産品にはかなわないので、そういう文脈ではなく、体験を共有したり、プロセスが楽しめるようなのがいいんじゃないでしょうか。たとえば、家を建てることにしても、建築家やつくり手とずっと対話しながらつくっていく、そうしたプロセスを含めて楽しむものですよね。プロダクツでも、そういうのがあれば僕も使ってみたいと思います。プレゼントとかも、自分でつくるのは無理だけれど、職人さんの力を借りて、その人にあったオリジナルなもの――たとえば、いつもコップをつるっと手からすべらせるから、君のためにざらっとしたすべらないコップをつくってもらったよ、とか(笑)。なんかそれってすごく贅沢なことですよね。
 
――最後に、中村さんにとって生活を豊かにする”グッド”デザインというのは、どのようなものでしょうか?
 
中村:何かしら不便だった生活をよくするという意味でのデザインの使命はもうなくなってしまった気がしています。デザインはもはや嗜好品に近くなってきているんじゃないでしょうか。先日、建築家の藤本壮介さんと藤森照信さんが対談したときに、藤森さんが「時間が経ったものは無条件にいい」とおっしゃってたらしいんです。石でもなんでも100年とか時間を経たものはなんでもいいんだと。それってどういうことかというと、あるものが100年過ごしてきたという情報から、人がその中に想像する物語、つまりものそれ自体よりも、その裏側にある文脈を人は見始めていて、そういうことが人を豊かにしたり、ほっこりさせたりするんじゃないのかなと。ものにまつわる”情報デザイン”というか、もの自体よりも、それを取り巻くストーリーをいかに編集、デザインするかというのは、僕の仕事に近いことだと思うし、ものの価値を変えることもあります。ある意味では、デザインもアートに近くなっているのかもしれませんよね。「REALJAPANPROJECT」がおもしろいなと思うのは、もの自体の魅力もさることながら、その後ろにストーリーがあることなんじゃないかと思いますね。
 
――ありがとうございました。
 
 
【プロフィール】
Yugo Nakamura
中村勇吾
1970年生まれ。東京大学工学部大学院修了。1998年よりインタラクティブデザインの世界に。2004年に「tha ltd.」設立。以後、数多くのウェブサイトや映像のアートディレクション、インターフェースデザイン、プログラミングの分野で横断/縦断的に活動を続けている。カンヌ国際広告フェスティバル・グランプリ、OneShowインタラクティブ・グランプリ、アルス・エレクトロニカ入賞ほか多数受賞。代表作に、iidaWonderwallUNIQLO USサイトMORISAWA fontpark2.0NEC ecotonoha[エコトノハ]など多数。