Interview with a leading creator vol.14
Ko Matsubara /editor
トップクリエイター・インタビュー vol.14
松原 亨(編集者)
 
Photo_Isamu Ito(lefthands) Text & Edit_Shigekazu Ohno(lefthands)
 
 
日本各地に連綿と受け継がれるものづくりの伝統と技術。REAL JAPAN PROJECTでは、それを日本のみならず世界へ向けて発信するべく、さまざまな文化活動を行っています。 このインタビューコーナーでは、国内はもとより世界を舞台に第一線で活躍するクリエイターの方々をお招きし、ご自身の活動に絡めて、日本のものづくりの魅力と可能性について、お話を伺っています。 第14回目のゲストは、雑誌『Casa BRUTUS』編集長の松原 亨さん。建築やプロダクト、デザイン、食など、さまざまな切り口から世界の最先端を取材してきた松原さんは、日本のものづくりの現実と未来を、どう見ているのでしょうか。
 
――まず、『Casa BRUTUS』がどんな雑誌なのかを教えて頂けますか?
『Casa BRUTUS』の表紙の左上には創刊以来ずっと「Life Design Magazine」というキャッチフレーズがあります。洋服から家具、住宅、そして美術館などの建築などなど、我々の生活を豊かにしてくれる「デザイン」を、読者の皆さんと一緒に楽しみたい、そんな気持ちでつくっている雑誌です。また、Life Designとは、「日々の生活をデザインする」という意味でもあると思っています。だから、我々の暮らしに不可欠な要素—-美味しい食べ物や刺激的な旅、ペットや植物などに関する情報も、独自の切り口で毎号掲載しています。自分の生活をどうデザインするか、そのための情報誌です。
 
日々の暮らしの中で、デザインや建築を楽しむには、その背後にある文化やストーリー、そんな情報が「もの」と一緒にないと、本当の魅力を味わうことができません。『Casa BRUTUS』は、そんな情報を発信する雑誌です。海外の読者も意識していますから、年に2回は英語訳付きのバイリンガルにしています。いまは完全にインターネットの時代で、経済も文化も、リアルにグローバルですから、海外も視野に入れてデザインのストーリーを伝えたいなと。ものを機能性で選ぶとしても、そのものが背後に持つストーリーを知ることで、毎日の生活がもっともっと楽しくなると思っています。
 
――松原さんご自身も、これまでいろんな国を取材されていますよね?
『Casa BRUTUS』が月刊化された2000年からの編集に関わっているので、中国、メキシコ、インド、フランス、イタリア、スイス、フィンランド、ドイツなどなど、これまで15カ国くらいで取材しました。謎のウィルスにやられて高熱で倒れたり、まあ、いろんな思い出がありますね。
 
――さまざまな国を取材された目で見て、ご自身の日本人としてのアイデンティティをどんなときに認識されますか?
僕ら日本人の仕事って、やっぱり細かいらしいですね。ディテールを伝えるために律儀にデータ取りをするとか。海外の他のメディアの動きよりも、やっぱり律儀、っていうのはよくいわれます(笑)。
 
――建築、プロダクト、ファッションをはじめとする日本のものづくりの魅力があるとすれば、それは何でしょう?
 
それはさっきの話とまったく同じで、日本にはすごく律儀で丁寧なものづくりの姿勢がありますよね。建築でもプロダクトでも、細部までピシッとしている。このディテールの完成度にかけては、世界のどの国と比べても、圧勝だと思います。
 
例えば、僕が最初に『Casa BRUTUS』の取材で海外出張したのはオランダでした。その頃、レム・コールハースなんていう世界的な建築界のスターはもちろん有名でしたが、2000年頃には、その下の世代、MVRDVとか、そういった建築家ユニットが話題になり始めていました。MVRDVは後に日本でも表参道の〈GYRE〉を設計したりしていますけど。まあ、オランダのコンセプチャルでかっ飛んだデザインっていうのが、一世を風靡していたんです。それで、現地でいろいろと住宅建築とかを見て回ったんですが、どれもコンセプトはものすごく面白いんだけど、施工が悪いんですね。ディテールがピシッとできていないから、写真を撮る分には分からなくても、近くで見ると、何だか床と壁の間に隙間が開いてるぞ、みたいな。実際、建築家に「このディテールの仕上げはどうなの?」って訊いてみたら、「日本の施工が素晴らし過ぎるんだ!」といわれましたよ。その建築家によると、オランダには職人がいないっていうんです。オランダは、17世紀の大航海時代に、最初に海へ出て行った人たちの国だから、海図をつくる産業が発達したんですって。その伝統が現代の素晴らしいグラフィックデザインの産業につながっていると。だからグラフィックの職人はいるけど、建築を施工する職人はいない。ヨーロッパの先進国は、全体的にそんな感じなのかもしれませんが、近代化へと向けて邁進していく過程で何かに特化していかなくてはならなくて、国ごとの分業が進んで、その際にたいていの先進国は職人を切り捨てて、デザインとか付加価値の高い分野の方に力を入れていったんじゃないかと思います。今、イギリスも、デザインと金融だけになっちゃって、職人がいなくなった、なんてことが問題になっているようですね。つまり出資はするけれども、ものをつくるために手を動かすのは、別の国の人っていう構造になっちゃっている。
 
そういう意味では、日本は欧米から見れば最果ての極東に位置する島国でありながら先進国で、さらに、ちゃんと職人がいてピシッとしたものがつくれるっていうところがすごい。欧米諸国からすれば、謎の国かもしれません。
 
ブラジルの話ですが、オスカー・ニーマイヤーっていう建築家が、1950年代にブラジリアっていう、当時としてはすごく未来的な首都を設計したんですが、写真を撮るとものすごくカッコいいんだけど、実際に行って見ると建物がボロボロなんですよ。コンクリートの質が悪いらしく、劣化が激しいし、ディテールもアバウトだから雨漏りもする。有名なブラジリア大聖堂に行ったら案内してくれた司祭が、「夏は暑いし、雨は漏るし、なんとかしなければ」っていってました(笑)。見た目のデザインっていうだけなら、いろんな国でいろんな発展を遂げてきたと思うのですが、それをディテールまでピシッときれいにつくるということにかけては、日本レベルはすごいと確信しています。若い頃は、日本のそういう側面はどっちかというとカッコ悪いと思ってたんですよ。ちまちました仕上げにこだわるよりも、大雑把でも派手な発明の方がかっこいいとかね。バカでしたね(笑)。日本だけでなく、世界のどこのものでも、細部まできちっと仕事をしてつくられているものは素晴らしいと、もちろん今は思います。
 
――そこにあったのが、日本の高度な職人文化だったいう訳ですね?
ええ。日本の地方に行って、職人さんに会うとすごいですよ。なんていうか、簡単に理解とか説明とかできないところでものをつくっているというか。まあそれは、日本だけじゃなく、どこの国の職人さんもそうなんですけど。取材をして、こうやってこうやってつくる……みたいなことを書かなくちゃいけないんですが、実際の彼らは、そう簡単に文章で書けないようなことを、身体が自然に動いてやっている。彼らはこう、指で撫でたときの感覚が……みたいな風に判断しながら、ものをつくっている。例えば、今日は湿度がちょっと高いから、乾燥の時間をちょっと延ばしてみようとか。そういうのって、ものすごく繊細な、その職人さんだけの身体に染み付いたセンサーがあって初めて感知できるもので、レシピみたいに簡単に伝えられないですよね。紙を漉く職人さんにしても、漆を塗る職人さんにしても、そういう高感度センサーのすごさに、ただただ圧倒されるばかりです。そうした繊細な感性は、もちろんトレーニングの積み重ねで体得されるんでしょうけれど、それを言葉で表現するのは難しい。スポーツでも、楽器を弾くとかでもそうですが、身体が自動的に動くっていう部分が大きい。そういうのが、最先端の自動車産業なんかにおいてすら、いまだにありますよね。最後の仕上げは職人の指先の感覚にゆだねられている、というような。
 
――我々日本人は、例えばふつうにスイスの腕時計をつけて、イタリアの服を着て、イギリスの靴を履いたりしていますが、そんな中で、松原さんが特に気に入って身につけたり使ったりしている日本製品は何でしょう?
まずね、食に関するものは、やっぱり日本のものに魅かれます。食器にしても、使い心地だけでなく、触り心地や見た目も素晴らしいと思います。それと、特に海外に行って思うのは、日本の文房具の秀逸さですね。例えばふつうに大手文具メーカーがつくる、紙で留めるステイプラーとか、消せるボールペンとか。パリにmerciっていうセレクトショップがありますけど、あそこにも日本の文房具がたくさん売っています。文房具も含めて雑貨といわれるものは、日本のものはセンスがよくて、しかも新しい機能を持ったものが多い。日本人は、どんなにちっちゃなものでも、改善とたゆまぬ技術革新で進化させますからね。僕も、外国ブランドが大好きな世代ですけれども、それでも「これは日本製に限る」っていうものがあると、嬉しいですね。
 
――松原さんから見て、「これはぜひ世界に出したい、知って欲しい」と思うような日本のものには、何があるでしょうか?
まずは、さっき挙げた文房具がありますね。最近またMUJIのムック本を『Casa BRUTUS』から出したんですが、MUJIのやっていることは面白いし、世界でももっとうけると思います。あとね、発酵技術。納豆とか漬け物とか、お酒とか。日本の発酵技術は歴史的にも世界に先んじているそうです。身近なものでは醤油なんかはもう世界中に広がっていますけど、発酵技術でつくる抗生物質とか、個人的にはそういう技術が世界をリードするといいなと思っています。納豆菌がつくる酵素、ナットウキナーゼの保水力がアフリカの砂漠化を沮止する、なんて話にも萌えます。
 
――日本のものづくりをもっと広く、海外にまで発信していくためには、どんな課題や方法があるか、お聞かせ願えますでしょうか?
 
日本のものを世界に売るっていいますが、売るのはものだけじゃなく、その背後の文化も含めてじゃないとだめですよね。先日、アメリカでは人気No.1のライフスタイル・アドバイザー、マーサ・スチュワートを取材しましたが、彼女は日本の調理器具を絶賛するんです。鍋とか盛り付け箸とか、いろいろな道具が本当に良くできていると。でも、これは日本食という文化が海外でもかなりの敬意をもって理解されているからこそ。日本食が素晴らしいから、そのための道具についても深く理解しようとしてくれているんだと思います。
 
プロダクトは、それを使う文化とか習慣と、一緒に売っていく必要がある。ものにまつわる、そういう情報を伝えるメディアとして、『Casa BRUTUS』にも役割があるなあ、とも思っています。
 
 
【プロフィール】

松原 亨 (まつばら こう/Ko Matsubara)

1967年東京生まれ。

1991年早稲田大学政治経済学部卒業、マガジンハウス入社。雑誌『ポパイ』の編集に携わった後、2000年より月刊『カーサ ブルータス』編集部勤務。2012年同編集部編集長に就任。

Casa BRUTUSホームページ  http://magazineworld.jp/casabrutus/

 
main-2.jpg