Interview with a leading creator vol.5
Yoshihiko Todaka/editor
 
トップクリエイター・インタビュー vol.5
マガジンハウス 戸高良彦(編集者)
 
 
photo_Isamu Ito(lefthands)  text_Keisuke Tajiri(lefthands)  edit_lefthands
 
日本各地に、連綿と受け継がれるものづくりの伝統。それを広く全国に、さらには世界に向けて発信しているREALJAPANPROJECTの活動には、著名人たちからも多くの賛同の声が寄せられています。世界を舞台に活躍する第一線のクリエイターをお招きして、日本のものづくりをテーマにお話しをうかがうこのコーナー。第5回目のゲストは、独自の視点で生活シーンを切り取るライフスタイル誌『Hanako』副編集長、そして『Hanako FOR MEN』編集統括の、戸高良彦さんです。
 
――『Hanako』は とても長く続いている雑誌ですが、どのような経緯で創刊し、いまに続いているのでしょうか?
 
戸高:『Hanako』は今年、23周年になります。創刊は1988年、男女雇用機会均等法が施行されて2年後。それをきっかけに、女性も男性と同じように働くようになり、収入も増え、街へ繰り出すようになりました。欲しいものを買い、おいしいものを食べ、 海外旅行をして、恋をする―–『Hanako』はそんな女性たちのために作られた情報誌なんです。当時の編集者も読者と同年代で、同じような価値観とライフスタイルを共有していたので、作り手と受け手がうまく噛み合って、どんどん部数を伸ばしていきました。それから時代が経つにつれて、競合誌が増え、フリーペーパーのブームがあり、デジタル化の波があったりと、情報のチャネルが多岐化し、いつでもどこでも簡単に情報が手に入るようになりました。『Hanako』もその影響を受け、旧来の型では通用しなくなったため、2008年にリニューアルしました。
 
――リニューアル号はカフェ案内特集でしたね。どのようなアプローチの変化があったのでしょうか?
 
戸高:新しく就任した北脇朝子編集長は、当時、大阪で『Hanako West』の編集長を務めていました。リニューアル号を準備するにあたり、編集長が用意したパイロット版を見せられました。それは『Hanako West』のあり写真でシンプルに構成したものでした。何を言いたいかがストレートに伝わる。写真を東京のカフェに置きかえるだけで、すっかり成立する完璧なものでした。北脇『Hanako』の結果は3ヶ月で出ると直感。大ヒットするか、まったく売れないかどちらかだなと。東京のメディア関係者にとっては、今さらカフェか? という反応がありました。しかし「東京カフェ案内」は完売、増刷。結局3号連続完売となり、大成功を収めたんですね。もともと『Hanako』の最大の問題はデザインとテイストの統一だと感じていましたから、これをクリアしたのがポイントです。
 
――他の雑誌にはない独自性があったかと思うのですが、それはどのようなところでしょうか?
 
戸高:まずは北脇の信念。情報の新しさや量で構成するのではなく、スタンダードだけれど本質的に価値があって、どんな時代でも通用するであろう情報を中心に粘っこく編むということ。情報を整理したぶんビジュアルでメリハリをつける。そして、読者が心地良いと感じるようなデザインでパッケージしたことで、オリジナルなものが出来たと思っています。新しいカルチャーがとか、カッコいいクリエーターがとかではなく、可愛いとか優しいといった「女子的気分」で誌面構成するわけですから、『Hanako』のような雑誌を成立させるのは、実はかなり難しいのです。そもそも、雑誌は人と人が絡み合って作るもので、編集長だけが優秀でもいいものはできません。デザイナー、現場編集者やライター、カメラマンなど、お互いにいいところを引き出し合う関係がとても大切なんです。このケミカルな関係がうまくいったお陰で、広く受け入れられる『Hanako』ができたのだと感じています。
 
――23年の間で、『Hanako』も時代とともに変化してきたと思いますが、編集という視点から、時代をどのように捉えているのでしょう?
 
戸高:時代を語るなら、基本、情報はデジテルで無料ですから、単なる情報としての雑誌では成立しません。生活者の限られた予算と大切な時間と空間の中に、雑誌が入り込めるかどうかです。つまり競合はキル フェ ボンのイチゴのタルト1ピースやキャス・キッドソンの可愛い雑貨、村上春樹の『1Q84』ということになります。もはや雑誌の競合はwebを含む5大メディアではないのです。編集という仕事は、「今」を素材にして、どう調理するかにかかっています。しかし軸を作っても、時代は刻一刻と変わっていくので、作った軸が今どこにどのくらいずれているのかを、肌で感じ取ることが不可欠です。それを的確にキャッチできれば、編集という仕事は終わることなく続いていきます。今もまた、チューニングが必要なタ
イミングになってきたかな、と感じています。
 
――チューニングとは具体的にどのようなことですか?
 
戸高:自分たち、つまり誌面を時代の気分や質感に合わせることです。今まであえて控えていたのですが、タレントやモデルやOLを企画に絡めるとか、ファッションや美容健康など女性にとってのハレの部分に積極的に取り組んでいこうと考えています。これらのテーマは過分にキラキラしがちなのですが、『Hanako』にマッチするように、少し柔らかいなテイストで包むような表現を、実験的に試みています。今後どんな風に化学反応を起こすか、楽しみですね。そして、7月に1,000号目を数えるので、それに向けても色々と動いています。
 
――1,000号! それはおめでとうございます。何か特別な企画など、ご予定はあるのでしょうか?
 
戸高:「東京女子に語り継ぎたいスタンダードGOURMET & ITEM 2011」という記念特集と、9月21日に諸者を椿山荘に招待して記念イベントも行います。『Hanako』は主に「街」をテーマに誌面を作ってきましたが、過去23年の衣、食、住、美容を文化として掘り起こす一冊にしたいと考えています。今の時代にも、この先の時代にも語り継ぎたいベーシックな名店と名品を、1,000号にちなんで1,000ネタ集めてみようかと。簡単に言ってしまいましたが、1,000ネタ集めるのは大変なことで(笑)、ネタの数合わせが目的になるのは本意ではないので、あくまで予定、ということにしておきます(笑)。
 
――楽しみにしていますね。ちなみに去年、『Hanako FOR MEN』が創刊されましたが、これはどのような経緯で作られたのでしょうか?
 
戸高:『Hanako』のリニューアルをきっかけに、女の子だけでなく男の子も読むようになって、「メンズ版もあったらいいのに」という声を聞くようになりました。最近の男子は草食系と揶揄されますが、実はそれぞれがこだわりを持ち、興味があることは掘り下げる人たちがたくさんいます。以前、湘南に住んでいるライターが、「俺のアンチョビパスタを食べにきてください」って言うんですよ。聞いてみると、自分で釣り上げたヒコイワシで、自家製アンチョビを作っていると。純粋に、カッコいいと思いました。それが彼のリアルライフなんですね。僕が自宅に帰る途中に東山(中目黒)があるのですが、同じような価値観の男の子たちが増えてきていて、界隈に彼ら自身による小さな店が立ち並ぶようになりました。カフェやショップ、家具屋など、ここ1、2年で東山文化圏と呼べるほどになってきています。ちょうどそんな折りに、シンガタのクリエイティブディレクター佐々木宏さんが男性向け整髪料のクリエイティブを手がけていて、商品の広告連動できる雑誌を探していると。『Hanako』の雰囲気がいいのだけれど、そんなテイストのメンズ誌がないから、いっそのこと新しく作ってみては? という御神託(笑)がありました。何より「メンズ版を」という読者の期待に応えることになる。北脇と一晩考えて『Hanako FOR MEN』を作ることに決めました。創刊号は6万部でスタートし、1万2000部増刷。この9月に5号目を発売するのですが、さらに読者に共感を持っていただきながら、きちんと育てたい。Twitterとfacebookの公式アカウントも作ったばかりです。
 
――今の時代にすごく合っていると思います。『Hanako FOR MEN』と『Hanako』の2誌を編集するうえで、何か違いはありますか?
 
戸高:『Hanako』にはほとんど人の影がないんです。写真に人物が出てこない。女子は自分が主役です。写真は女子読者の目線でもあります。一方、『Hanako FOR MEN』には人物がたくさん出てきます。 男は共感する生き物で、こいつは自分に似ているな、と感じて仲間意識を持ちながらも、一定の距離を保っている。したがって『Hanako』は訴求年代も広くマスになれますが、『FOR MEN』はターゲティングがはっきりしてしまいます。両方ともシンプルで優しげなデザインで、一見似ているように見えますが、編集もデザインもアプローチは全然違いますね。
 
――『Hanako』にはOLにスポットを当てた、ハナコソサエティというページがありますが、これはまた違った視点なのでしょうか?
 
戸高:Hanako Societyはモノやコトに敏感な女子が、実際コレはどうなの? と商品についてリアルな声を発信する場所です。その情報の信頼性やリアリティを担保するために、メンバーに登場してもらっています。皆さん、ブログもツイッターもやるので、色々なメディアと同時多発的に連動させながら、『Hanako』を雑誌という枠から解き放とうとしています。例えばいま話をしているこの場所はHanako Societyのために編集部に設けたラウンジです。OLさんに遊びに来てもらったり、彼女たちを撮影したり、雑誌から飛び出した1つのメディアと言えます。インテリア特集でIDÈEさんに『Hanako』をイメージして作っていただきました。
 
――今は、Webマガジンや書籍のアプリなど、情報コンテンツも多様化していますよね。 REALJAPANPROJECTも、ギャラリーだけでなくWebを通じて発信しています。
 
戸高:雑誌だけで出版事業を成立させるのは難しい時代になってきました。ですが雑誌メディアには、紙の質感やめくるリズムといった、物質的にも生理的にも絶対的な強さがあります。さらにWebやアプリなどのデジタルメディアと連鎖共生することが重要です。『Hanako』も、iPhone用アプリ、Twitter公式アカウントなどを活用してクロスメディア展開しています。自分たちの作ったコンテンツが情報のカオスに埋没しないように、クロスメディアしながらうまく動線を作っていけるかが鍵ですね。継承したいモノをどう活かすか、そのための取捨選択を、今後もどんどん迫られてくると思います。そういうところも含めて、REALJAPANPROJECTと『Hanako』には共通点がありますね。昔からあるモノを現代の視点で切り取り、本来の価値を再発見して、時代に則したWebなどのメディアを活用しながら、魅力を伝えていく。 REALJAPANPROJECTが素晴らしいと思ったのは、伝統の技術を使って、今の時代も美しいと感じるデザインのモノをセレクトしていること。それでいて、誰にでも手の届く民藝品であること。まさに現代の民藝の始祖、柳宗悦ですね。これからは消費するために作られるモノだけでなく、本質的に価値のあるモノをはっきりさせながら、広く普及していけるといいですね。
 
――ありがとうございました。
 
【プロフィール】
Yoshihiko Todaka
戸高良彦
宮崎市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、マガジンハウス入社。『Hanako』編集部、『BRUTUS』編集部、『relax』編集部などを経て、2006年より再び『Hanako』編集部へ。
2009年『Hanako FOR MEN』を立ち上げる。ただいま、『Hanako』1000号記念特集「東京女子に語り継ぎたいスタンダードGOURMET & ITEM 2011」(7月28日発売予定)、『Hanako FOR MEN』VOL.5「旅」特集(9月22日発売予定)をダブルで制作中。
 
 
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左:『Hanako』994号(2011年4月21日発売)「鎌倉」特集(AD吉井茂活/MOKA STORE)
右:『Hanako FOR MEN』VOL.4(2011年3月24日発売)「僕のアジト。」特集(AD田島嗣土/Qullo&Co.)