Interview with a leading creator vol.9
Kundo Koyama/Broadcast Writer
トップクリエイター・インタビュー vol.9
小山薫堂(放送作家)
 
Photo_Hiroyuki Kudo/Text&Edit_Nao Omori
 
 
日本各地に連綿と受け継がれるモノづくりの伝統と技術。REAL JAPAN PROJECTでは、それを日本のみならず世界へ向けて発信するべくさまざまな活動を行っています。ここでは、国内はもとより、世界を舞台に第一線で活躍をされているクリエイターの方々をお招きし、ご自身の活動や日本のモノづくりについてインタビュー。第9回目のゲストは、オリジナリティ溢れる視点で多彩な才能を発揮し、放送作家、脚本家、大学教授、ホテルのアドバイザーなど、多岐に渡る活躍をされている小山薫堂さんです。
 
――映画『おくりびと』では舞台となった山形県の秀麗な気候風土、『恋する日本語』(幻冬舎文庫)では日本語がもつ抒情的な美しさや奥深さ、「東京スマートドライバー」では日本人の温かな思いやりの心など、小山さんの手掛けられたお仕事を拝見していると、「日本人でよかったな」と、改めて日本の素晴らしさを感じることができます。小山さんにとっての”日本の魅力”をお聞かせください。
 
“誠実である”ということが、まず第一にあると思うんですよね。それはやはり”優しさ”から来ているのだと感じています。なぜ優しく誠実な国民になったのかはよく分からないのですが、でもきっと、資源に恵まれず、国土も狭く、決して年中いいお天気とはいえない、そんな国に生まれたが故に、努力や工夫をする気質になり、共同で生きていくことの大切さを育んできたのかな、と考えています。感性もすごく繊細ですしね。全く新しいものを生み出す力はもしかしたら欠けているかもしれないけれど、それをさらに磨き上げ、改良する知恵を、日本人はたくさんもっているのではないでしょうか。
 
――日本には春夏秋冬それぞれの美しさがありますが、小山さんにはどのように映っていらっしゃいますか?
 
日本人は四季と上手に付き合ってきた国民ですよね。冬になると子どもたちは雪合戦をしたり、春が来たらお花見をしたり。僕は餅つきをやるのが好きなんですよ。藁を火種にもち米を蒸して、臼と杵を使ってお餅をつくんです。それで鏡餅を作って、お正月に備えたりとか。そういう季節の織り目のようなものをイベントによってつけていく、という行為は好きですね。日本人が受け継いできた独特の四季の文化が、生活の中に自然と根付いているのだと思います。
 
――一番お好きな季節は?
 
全部好きなんですけど、一番は冬ですかね。寒さが厳しくなってきて、冬の匂いがする瞬間。そんな冬の匂いが好きですね。空がすごく透き通っていて、星が空に映えている、そんな澄んだ夜空の日。白い息が上に消えていく感じとかね。九州の生まれなので、雪に憧れがあるんです。雪もそうですし、寒いところが好きなので、特に冬が好きですね。
 
――中田英寿さんが主催されている「REVALUE NIPPON PROJECT」ではアドバイザーとして活動されていらっしゃいますが、日本の伝統工芸品についてはどのようなお考えをおもちでしたか?
 
もったいないな、と感じていることがたくさんあったんですね。素晴らしい技術や、目を見張るような美しさがあるのに、少しだけいまの時代にあっていなかったり、時代にそぐわないモノが溢れている時期があったと思うんです。それを、もっとこうしたらいいのに、とか、こんなところで使われていたらいいのに、とか。そういう”もったいないな”という気持ちが強かったですね。
 
――それは”技術力”をベースに考えられたときですか?
 
技術もそうですし、プロダクトそのものや質感ですね。僕はこういうモノをなるべく購入したいと思っていて、いろいろ発注したりもしているんです。例えば、金沢の「能作」という漆器屋さんで、お盆やワインクーラーを作ってもらいました。お盆は大きさや角の作りなども細かくオーダーさせていただいて、裏には「N35」と会社の名前を入れてもらって。漆の魅力って、時間とともに風合いが増していきますし、愛着が湧くんですよね。不思議と。
 
――小山さんの著書『明日を変える近道』(PHP研究所)の中で、アイデアに詰まったときは”誰かに憑依して考える”との記述を拝見しました。そこで、もし小山さんが代々続く伝統的な漆器屋の跡取りとしてお生まれになっていたとしたら、漆器の魅力をどのようにして多くの方に伝えていかれるか、ご提案いただけないでしょうか?
 
漆の魅力を伝えるポイントは、一点だけでいいのかな、と思っています。すべてを漆にしてしまうと、やや押しつけがましくなるような気がしていて。ですから、「ではカフェを立ち上げよう!」となったときに、全部漆のモノを使っているカフェにしてしまうと、やや押し売り的な匂いがしてしまうかもしれない。例えば、漆のスプーンをまず使ってほしい、ということであれば、他の食器などはふつうの陶器にしてしまって、スプーンだけを漆にするとかね。「漆屋である以上、すべて漆でなければいけない」と考えるのではなく、漆と相性のいいモノを取り入れて、どこかでチラッと良さを伝えられるようなものを作れたらいいかな、と思います。あとは、いまは一人ひとりがメディアとなり、それぞれの発信媒体をもっている時代なので、コアなファンをどう増やしていくか、ということを考えると思いますね。
 
――なるほど。では、漆を使って作ってみたいモノはございますか?
 
「額縁」が面白そうですね。書を入れて、インテリアとして飾るといいかな、と思います。ベースとなるのは、和紙が似合いそうですね。
 
――素敵ですね。漆の額縁って、意外とあまり見かけません。和紙といえば、「REVALUE NIPPON PROJECT」で建築家・隈研吾さんと、工芸家・佐藤友佳理さんと一緒に和紙をテーマとした作品を製作されていらっしゃいましたが、どのような作品となったのですか?
 
「かみのいえ」というタイトルのハウス イン ハウスを作りました。いわゆる蚊帳のようなイメージですね。和紙で構成された骨組みの部分に光ファイバーを入れて、全体
がふわっと光を放っているんです。1800×1800CMくらいのサイズで「隈さんの最小作品」というコンセプト(笑)。日本は紙と木で家を作っている国なので、隈研吾が紙で最小の家を作ったら面白いな、という発想からスタートしました。
 
――隈さんは世界に名を馳せる著名な建築家であり、佐藤さんは愛媛県内子町の伝統的な五十崎和紙の継承と新しい可能性を探求しながら活躍されていらっしゃる、このお二人とのモノづくりはどのように行われていったのですか?
 
僕がコンセプトをご提案して、具体的なアイデアをいただき、それをもとにアドバイスさせていただきながらつくっていきました。モノづくりというのは、モノが生まれる背景にあるストーリーが大切だと思うんです。コンセプトワードみたいなものよりも、なぜこの商品がここにあるのか、という理由ですね。そこに人の共感を呼んだり、愛着が湧く。ですから、商品そのものを説明する言葉より、誕生するきっかけが大事なんじゃないかな、と考えています。
 
――今回の「かみのいえ」には、どんなストーリーがあるのでしょうか?
 
「隈研吾に家を設計してもらいたいんだけど、金銭的に難しい。だけど隈研吾の作品の中に住んでみたい」と思う人は大勢いると思うんですよね。隈さんが手掛ける建築は、静謐な佇まいのものが多いので、その隈さんが”紙”という素材を使ったらどんな空間を構成するのかな、というキャッチボールみたいなものだったんです。そこに紙のプロフェッショナルである佐藤さんが入った。きっと、隈さんと佐藤さんと僕の三人が出会ったというところに、プロダクトの”ストーリーの種”が存在しているんです。この「かみのいえ」の中では、本を読んだり、アイデアを練ったり、居場所のないお父さんが自分だけのお城として入ってもらう、というのもありでしょうし、使い方はそれぞれの感性で見つけていただきたいですね。
 
――今回のプロジェクトでは”和紙”でしたが、次にモノを作ってみたいと思われる素材を教えてください。
 
畳、ですね。というのも、先日山形の畳職人さんとお話をさせていただいて驚いたのですが、畳職人さんはイグサのことをほとんど知らないそうなんです。畳屋さんは、農家の方がイグサを栽培し、収穫し、編んだものを、仲介業者を通して購入しているらしいんですね。しかし、いま悪徳な仲介業者が海外産の粗悪なイグサを日本産のイグサだと偽って卸しているという状況が起きている。そうすると、畳職人さんは「日本産のイグサなんだ」と思って畳を作るので、日本産の畳として流通してしまう。農家の方も自分たちが育てたイグサがどこの畳屋さんにいくのかもよく分からないみたいなんですよ。国産イグサのほとんどが熊本県で生産されているんですけど、農家の方々が非常に苦戦しているそうです。海外のものは早く収穫をしてしまうのでもちも悪い。やはり日本産の方が断然質がいいんですね。ですから、床の畳としての需要も減ってきていますし、畳を使った製品が何かできないかな、と考えています。
 
――熊本県は小山さんのご出身地でもありますが、九州新幹線元年事業総合アドバイザーとして携わられている「くまもとサプライズ」はとても面白いプロジェクトですね。どのような経緯で参加されることとなったのですか?
 
九州新幹線全線開通を契機に県を盛り上げようという市民団体と熊本県が、新幹線元年戦略委員会としてプロジェクトを進めていたんですね。その中で、熊本県出身である僕がプロデューサーとして迎えられることになりました。一般の市民団体と熊本県庁が一緒にプロジェクトを行うというのは、県の挑戦としてはすごく珍しいパターンですし、思い切った選択だったと思うんですよね。ですから僕も「故郷のために頑張ろうかな」と。
 
――「くまもとサプライズ」は、熊本県の中にある”サプライズ=ハッピーなびっくり”を県民自身が見つけ、それを多くの方々に伝えていく、というコンセプトだそうですが、実際にその取り組みを行っていく過程で、県民の方々に意識の変化などは生まれましたか?
 
それはすごくありましたね。例えば「ゆるキャラ®グランプリ2011」でグランプリを受賞したくまモン。くまモンは、県内でどのキャラクターよりも”くまモン”となるほど、本当にびっくりするくらい人気になりまして。それで、くまモンをきっかけにみんなが地元を愛してくれるようになったのが、ヒシヒシと伝わってくるんですね。このキャンペーンはもともと「観光ってなんだろう」というところから考えているんです。”観光”って、”光”を”観る”と書きますけど、自分たちのところに他の人たちが”光”を”観”に来るんだったら、自分たちは毎日それを観ていることの幸せを実感した方がいいよね、という視点。いいモノをただ外に出すより、いいモノがあるのだったら、まず自分たちがそれを味わい、暮らしを豊かにする。なんていいところに住んでいるだろう、嬉しいなぁ、という想いで来てくれる人たちをもてなしたほうがきっと伝わるよね、と。そうやって県民一人ひとりが、その想いを外に発信していく運動にしようと思いました。自分の友達一人を他の県から呼んだら、県民と同じ数だけの観光客が来てくれるわけですから。一方的に私たちの県に来てください、というやり方よりも、自分たちが自分たちの街を愛し、味わい、堪能し、来てくれる方たちを迎えて一緒に喜びを分かち合おう、というプロジェクトにしたかったんです。また『くまもとで、まってる。』という作品を公開することによって、改めて「いいね」と熊本の方に感じてもらおうと思いました。
 
――『くまもとで、まってる。』、拝見いたしました。とても美しい映像と音楽で構成されていて、熊本の優しく温かな”ひと”と”暮らし”の魅力が詰まった、宝石箱のようなフィルムですね。もしかしたら、熊本県の方々も知らないような風景もたくさんあるのではないでしょうか。
 
そうですね。熊本にこんなところがあったんだ、こんな人がいたんだ、という再発見のきっかけにもなっていると思うんです。あと、熊本県ってすごいなと思ったのが、これは新幹線開業の予算を使った作品なんですね。でも新幹線が1カットもでてこない(笑)。新幹線どころか、電車でさえローカル線が走っているくらいなんです。
 
――くまモンも、馬に乗っていましたよね……。
 
そう、普通だったら「新幹線の開通を祝うものなのに、ありえないじゃないか!」と言われてしまうと思うんです。しかし行政の理解力の高さと頭の柔軟さがあったからこそ、今回の成功につながっているのだと感じています。くまモンにしても、くまモンをつくったのは新幹線元年戦略室なのですが、くまモンを大阪にキャンペーンに行かせたりしているのはブランド推進課なんですね。ある部署がつくったキャラクターを別の部署が使うというのは、他県ではなかなか難しいことだと思うんです。しかし熊本県の場合は、県庁のみなさんが手と手を取り合っているんですよね。
 
――では最後に、私たちが当たり前のように感じているかもしれない日本の素晴らしさに、改めて気付くための”ヒント”を教えてください。
 
僕の好きな言葉で「坐辺師友」というものがあるんです。これは、自分の座っている周りにあるものこそが、師であり、友である。自分の暮らしの中の手の届くところから学ぶものがあり、それは自分の友達だったりする、という意味なんですね。一人ひとりが自分の周りを改めて見直し、先生のような人がいる、大切なメッセージをくれるものがある、愛すべき友達に囲まれている、そういうのを自覚することが、ひとつのきっかけになるのではないでしょうか。「日本」というとすごく広く感じますが、それらを見つける努力をする、あるいは頭の片隅にその想いを常に抱いておくことが、非常に大切だと思います。
 
――ありがとうございました。
 
 
【プロフィール】
小山薫堂
Kundo Koyama
 
1964年熊本県天草市生まれ。放送作家・脚本家・東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科長。N35inc./(株)オレンジ・アンドパートナーズ代表。日本大学芸術学部放送学科在籍中に放送作家としての活動を開始。「カノッサの屈辱」「東京ワンダーホテル」「ニューデザインパラダイス」など斬新なテレビ番組を数多く企画。「料理の鉄人」「トリセツ」は国際エミー賞に入賞した。初映画脚本となる「おくりびと」(2008)が、第60回読売文学賞戯曲・シナリオ部門賞、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞獲得をはじめ、国内外で高い評価を受ける。テレビや映画以外でも、ライフスタイル誌のエッセイ連載、小説、絵本翻訳など、幅広い執筆活動を展開。また、日光金谷ホテル顧問、東京スマートドライバー発起人、観光庁観光アドバイザーなど、活動分野は多岐に渡る。著書に、小説「フィルム」(講談社)、絵本「まってる。」「いのちのかぞえかた」(共に千倉書房)、「考えないヒント」(幻冬舎新書)、「人を喜ばせるということ」(中公新書ラクレ)、「人生食堂100軒」(プレジデント社)、「つながる技術」(PHP研究所)など。
 
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