四季折々に、さまざまな情景を見せる京都。長い歴史に培われた日本文化が、今なお鮮やかに息づくこの街で、着物の新しい価値を発信している人物がいます。着物デザイナーの小川修平さんは、ふだんなかなか接点がない着物を、伝統の技法はそのままに、よりモダンな感性でデザイン。さらにその着物を着ていくON/OFFの「場」をプロデュースするなど、日本の伝統文化の継承に繋がるさまざまな活動を続けています。

さらに、その一環として新たに打ち出したのが、「着物の柄に想いを込めて贈る」という斬新なコンセプトでプロデュースするチョコレート。一見、意外に思える「着物とチョコレート」の取り合わせに秘められた、伝統継承という大きな課題へのヒントとなるヴィジョンを語って頂きました。

 

人の考えたものでは、想いを伝えきれない。

それならば自分でデザインしようと思いました。

 

―はじめに、小川さんの着物のブランドについて教えて頂けますか?

「和風音」と書いて、オフオンと読みます。オフの意味するカジュアルシーンから、オンの意味するフォーマルシーンまで、現代社会で毎日着られる着物を提唱していくというコンセプトで始めました。漢字で言うと、「和」は日本文化を、「風」は今のテイストを吹き込みたいという想いを、「音」は現代を表しています。

 

―そもそも、和風音を立ち上げようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

染屋さんに就職し、職人として働き始めたのですが、当時まだ22歳と若く、もともとジャニーズ出身という背景もあり、売り場に立たされることが多かったんです。しかし、他人のデザインしたものを売るというのが、自分には難しかった。どうしても、想いを伝えきれない部分があったんです。それならば、はじめから自分でデザインしてみようと思ったのがきっかけでした。

 

―実際に、自分でデザインできるに至るまでには、いろいろなご苦労があったのではないでしょうか?

そうですね。最初は、工房に所属した状態でブランドを立ち上げたということもあり、周りのスタッフや先生の兄弟子、姉弟子たちに、「こういうものを作りたい」と話を聞いて頂くところから力を借りて、試行錯誤しながらデザインを始めました。半年後くらいに独立したのですが、そこからは考えるのも資金繰りも自分一人でやらなくてはならず、苦労しましたね。

3年間くらいは、自宅を事務所代わりに、着物を作っては展示会を回り、売れたらまた作るといった具合で、少しずつ回していきました。ただ、頭はひとつなので、展示会にばかり行っていると、今度はデザインを考えたりだとか、作っている時間が足りなくなるというジレンマがありました。

―それがブレイクスルーしたのは、どんなタイミングだったのでしょうか?

ブランドを立ち上げて4年ほど経った頃でしょうか。小さい展示会やお店回りを続けているうちに、だんだんと評判が上がり、口コミで名前が知られるようになり、大手からも声が掛かるようになってきました。その辺りから、急に仕事が回るようになり、2、3年先の仕事まで入るようになったんです。

 

 

着物の良さや日本の文化を、

もっと広めていきたい。

 

―現在、和風音ではどんな活動に取り組み、何を目指しているのでしょうか?

やっていくに連れて、着物を通じて日本文化をもっと広めていかなければいけないと感じるようになりました。ただ着物を作って売るだけではなく、買って頂いた人に、着物があることでこんな楽しみがあるんですよというライフスタイル的な価値を伝えていく必要性を感じています。

そこで3年くらい前から、浴衣を絡めた音楽や文化を発信するイベントも手掛けるようになりました。着物を着ていく機会がないと言うのなら、僕らがその機会を作ろうと。まずは浴衣からでも和の文化に触れて貰う機会を設け、そこから着物を知って貰うことができればと考えています。

―これまでどんなイベントを手掛けてきたのでしょうか?

例えば、「浴衣でランチ」「浴衣で音楽会」といった内容のイベントを開催しました。ライブの後に、プレゼントが当たるゲームをやったりと、エンターテイメント的な要素も入れ、いらして頂いたお客様にはとても喜んで頂けています。これからも、着物でのお出掛けが楽しくなるような、さまざまなきっかけ作りをしていこうと思っています。

 

着物の文様の意味を

チョコレートに乗せて贈る。

 

―さて、最近の取り組みとして、「TOWA」のチョコレートに注目が集まっていますが、そもそもどんな発想と経緯から始まったのでしょうか?

最初に思いついたのは、9年ぐらい前のことでしょうか。鹿児島出張の際に出会った呉服屋の会長さんが、着物の文様に非常に詳しい方で、一つひとつの意味を丁寧に教えてくださったんです。そのときに、着物を着る人が文様の意味を分かって着れば、もっと楽しめるのにと感じました。例えば、振袖の波の柄には、「幸せが押し寄せる」という意味があるんです。でも、大半の方はそれを知らずに着ている。それぞれに深い意味合いや願いの込められた着物の文様を、どうにか伝える方法はないものかと思案したんです。

そのひとつの方法として、文様を乗せたチョコレートを作り、そこに想いを込めて相手に贈るということができたら素敵だなと思いつきました。僕自身が、単純にチョコレートが好きということもありますが(笑)、チョコレートなら、世界のどの国の人にでも美味しく食べて貰えると思ったんです。

でも、まずは本業の着物をしっかり軌道に乗せてからにしようという思いがあり、ずっと寝かせていました。そして今回、ブランドが10周年を迎えた記念もあり、いよいよプロジェクトをスタートさせるに至ったのです。

 

―現在、どういった展開がなされているのでしょうか?

2017年1月に、京都伊勢丹で期間限定出店をしたのですが、思った以上にいい感触を得られたんです。正直、不安もありましたが、たくさんの方が足を止めてくださり、コンセプトにも多くの共感の声を得ることができました。「よそも見てから決めますね」とおっしゃられたお客様も、最終的には8割方が買いに戻ってきてくれましたね。きちんと想いが伝わったのだと実感できた、嬉しい瞬間でした。そして、今度は2月10日から「世界らん展」への出店も決まり、順調にスタートを切れたというところです。

 

箱やパッケージにも

着物デザイナーならではのこだわりが。

 

―商品は、どんな味と文様でラインナップされているのでしょうか?

現状、柚子やほうじ茶、きなこなど、全12種類のフレーバーを揃えています。すべて和のテイストというところが特徴であり、重要なポイントです。着物の文様と柄、そして味のすべてから、日本の文化が感じられるものになっています。

―チョコレートを作ると決めて、それが形になるまでには、どんなプロセスや苦労がありましたか?

食に関しては何も分からない状態でスタートしましたが、それぞれの分野のプロフェッショナルたちの協力を得て、ようやく形になりました。文様とかコンセプトだけではなく、そもそも食べて本当に美味しいものを追求したので、1年もの歳月が掛かりました。試作と試食を何度繰り返したか、分からないくらいです。

味が決まった後は、文様との組み合わせにもすごく悩みましたね。チョコレートひとつとはいえ、贈るのは想いであり気持ちです。それをお届けするにあたっては、日本の美しい伝統工芸品に触れて頂きたいという想いから、箱の包みも着物の手染めを生かした風呂敷風のものにしています。真心を包んで届けるという意味合いで、包みに対しても想いを添えながら作りました。チョコレートをきっかけに、文様への理解を広め、だんだんと着物に対する関心を高めていければと願っています。

―パッケージについても、どんなプロセスがあって、現在の色と形になったのか教えていただけますか?

ロゴは七宝文様といって、丸が重なっていく柄なんですが、これには子孫繁栄や人と人が繋がっていくという意味があります。ここまで辿り着けたのは、人に支えられているところが大きく、結局はやはり人と人との縁なのだという感謝の想いから、ロゴは七宝デザインにしたんです。もうひとつ、都+和で「TOWA」というブランドネームには、「都」=京都から、「和」=日本の伝統文化を発信継承していくという意味が込められています。さらに、日本の伝統文化を「永遠」に繋いでいきたいという想いも込められています。パッケージの色も日本独特の色にこだわっており、山吹色、藤色、朱色、水色と日本の四季に根ざした色づかいとしています。今回このプロジェクトを進めるにあたり、プロデューサーやアートディレクター、コピーライターなど素晴らしいプロフェッショナルたちとの出会いがありました。その繋がりも、七宝なのだと思っています。

―これからの展開について、教えて頂けますか?

まずは、「TOWA」のコンセプトをどんどん世の中の人に知って欲しい。そのために、海外にも発信していきたいと考えています。海外に発信することによって、日本人からも違う目で見えて貰えるという意味もあります。次に目指しているのは、パリのサロン・ド・ショコラへの出展です。日本の素晴らしい伝統文化の象徴である着物にチョコレートを添えて、世界に発信するきっかけにしたいですね。

 

 

「本物」の価値を発信するための

京都店出店への想い。

 

―京都への出店も予定しているそうですが、どのようなお店にしようとお考えでしょうか?

ただのチョコレートショップではなく、「本物」の価値を知って貰えるような場所にしたいと考えています。1Fがチョコレートを取り扱うカフェ、2Fには着物のレンタルや風呂敷染めの体験ブースを設け、さらにそこで撮影ができればいいなと考えています。海外から来られた方も、国内から来られた方も、チープなレンタル着物ではなく、「本物」に袖を通して体験して欲しいという強い想いがあります。また場所については、京都の三条に店を構えることで、着物だけでなく日本文化全体の発信基地にしたいと願っています。建物は長屋なので、奥には中庭もあり、非常に趣のある美しいお店に仕上がる予定です。

 

伝統と現代の間を埋めていけるような、

そんな活動をしていきたい。

 

―最後に、これからの課題や目標について、教えて頂けますか?

古典文化、伝統文化というものは、ある時期から進化が止まっているのではないかと思います。進化を止めたのか、できなかったのか。何が原因なのかは分からないですが、着物もずっと形が変わっていません。ところが、実は着物というものはすごく便利で、究極のデザインなんです。今のライフスタイルに合わないというだけであり、それをほんの少しいじることができたら、在り方は変わるはずです。

今はまだ、着物は大変そうで嫌だなという既成概念があり、実際に「着てみる」というところまでなかなか辿り着けていないんです。でも、一度「着てみる」というところまで辿り着けば、ふだんとは違う感動があり、その後も着ることが増えてくるものなのです。だから、まずは我々自身も楽しみながら、その間を地道に埋めていく作業をしなければいけません。それはきっと、ちょっとしたことの積み重ねなんだろうと思います。伝統と現代の間をうまく埋めることができるように色々考えながら、活動していきたいと思っています。

 

 

着物業界の新進気鋭のデザイナー、小川修平

1982年、京都府生まれ。京都の染屋で販売、営業、職人とさまざまな職を経験した後、着物メーカー「和風音」を立ち上げ、自らデザインを手掛ける。着物デザイナーとして初めて関西コレクションにも参加。着物の伝統を大切にし、これからの世代に繋げるという使命を掲げて活動中。2017年から、着物の文様よりインスピレーションを得たスイーツブランド「TOWA」をスタートさせている。 http://www.off-on.jp

 

Text_Kaori Kawake(lefthands) Edit_Shigekazu Ohno(lefthands) Photo_Isamu Ito(lefthands)