使うから感じる、長く使えそうな感覚や、思想に惹かれ、その感動から知るものづくりの手法。心に感じる事柄をヒントにすることで、まだ知らない日々の選択肢があるのかもしれません。

キッチン用品や食器など中心にプロダクトデザインに取組むヨシタ手工業デザイン室と、木工家具から空間、プロダクトまでを手がける職人&デザイナーチーム・フルスイングは、2017年春に協働の取り組み「jig」を立ち上げました。

リアルジャパンプロジェクトは、ものづくりへの共通の姿勢から始まった jig とその真ん中にある「治具」のあるものづくりに迫ります。

 

SONY DSC

▲2017年6月に行われたインテリアライフスタイルTOKYOでの「jig」ブースの様子。どちらも一般的なスツールより若干低めな、絶妙なサイズ感のスツール2作品を展示。制作スタジオやクリエティブな作業場に重宝するatelier stool(ロースツール /ヨシタ手工業デザイン室)と姿勢も保たれる抜群の安定感の log(ハイスツール/フルスイング)。

 

スツールはとっても道具的な家具

 

――まずはじめに、どういう経緯で二社が集まり「 jig 」が始まったのですか?

ヨシタ手工業デザイン室 ヨシタさん フルスイングのふたりとのお付き合いは、8年前に仕事場のカウンターを施工してもらったところからですよね。それから、勉強会と称した飲み会をよく開いていたんだよね (笑) 。

フルスイング 佐藤さん そうですね。ヨシタさんのデザイン手法や取組みに興味があったので作り方の話をよく伺っていました。フルスイングは木工だけど、ヨシタさんは様々な現場でものをつくっていて、もちろん家具にもヨシタさんは興味があったし、僕たちも家具だけでなくプロダクトや例えばステンレスラウンドバー素材※1にも興味があったんですね。いつか上手く融合して、何かできればいいなと考えていました。

ヨシタさん 僕もやりとりをしていて、薄々そんな風になるんじゃないかなと感じていました (笑) 。ある日、「スツール※2やりません?」って佐藤さんが持ちかけてきたんだよね。僕も即答で「あ、やろうか。」って、でもそこから製作までが長かったですよね。

※1 ヨシタ手工業デザイン室が手がけるテーブルウェア「ステンレスラウンドバーシリーズ」の素材。角が丸く手に馴染みやすいバー状の金属材料。
※ 2 背もたれのない椅子。背もたれのある一人用の椅子はチェア。

 

▲フルスイングの作業場にてヨシタ手工業デザイン室のデザイナー吉田守孝さん(左)、フルスイングのデザイナー佐藤界さん(右)

 

――スツールを今回やりたいと思った理由は何でしょうか?

フル佐藤さん 自分達が以前作ったスタッキングスツールのプロトタイプを家の空間に置いて使っていたんですね。ある日はリビングの自分の席のとなり、別の日はキッチンの前、戸棚の前やテーブルの下とよく移動させながら便利に使っていたんです。

ヨシタさん うん、うん。

フル佐藤さん テーブルや、椅子はあまりその場を移動しない。でもスツールだけは場所や用途が変わっても使えて非常に道具的な家具だなと。で、ヨシタさんと会って話していたら、ヨシタさん=道具をつくるデザイナーという意識からスツールというのが繋がって、ふつうに話している最中に誘いました。唐突だったかもしれません (笑) 。

 

“基準や拠り所の設定”が大切。

後々に影響してくる治具の存在をテーマに

 

――今回、「jig」としてそれぞれ2つのスツールを発表していますが、jig = 治具 とは実際にどんなものですか?どんなシーンで使うものなのでしょうか。

ヨシタさん  「治具」とは材料を加工したり組み上げる時に、支えたり固定したりする道具のことを言います。ちょっとマニアックで難しいですよね。

僕はデザイナーで製品を実際につくる職業ではありませんが、製品のモデルをつくるときには治具をつくっています。ふだん産地の現場でのやりとりでも、「ここにはこういう治具がいるんだよね」とか、作り方を相談する際に治具について話したり、教えてもらったりしていますね。

 

▲スツールの側板を裁断するための「治具」。この治具は、atelier stoolの側板を加工するもの。

 

log スツールの4本脚をハノ字に開くための「治具」。斜角で正確な位置に穴をあけるため、ボール盤に治具をかませて木材を置き加工する。

 

▲log スツールの座面に射角で穴をあける為の円盤状の治具。丸い座面がすっぽり入る形で固定し、所定の位置に同じ確度で穴をあける。

 

フルスイング 大野さん 治具と言えば、ヨシタさんの事務所に行ったときは、オッと思いましたよ。矩(直角)を出すためのステンレスの台があるんです。石膏の作業に使うと思うんですが、直板を見たときは合点がいきました。基準となるものをつくるための台はとても大切ですよね。

ヨシタさん 僕がいた柳事務所※4ではガラス面の直板を使っていましたが、うちの直板は両面ともステンレスを貼っています。モデルをつくるためにまずは正確な水平垂直が出た立方体の石膏をつくるところからはじまるんです。

※4 柳宗理の事務所。戦後の日本を代表するインダストリアルデザイナーの1人で日本のデザイン界に大きな功績を残した。

▲「jig」のスツール製作を行うフルスイングの職人・大野雄二さん。

フル佐藤さん 治具は、ものをつくる際にどうやってつくろうか思考していくときに生まれるもので、製品ができる手前の手前の準備段階のものなんですよね。

ヨシタさん そうなんだよね。いまの学生だったら、水平垂直が出ている材料をホームセンターなどで最初から買うことができるから、あんまりその大事さって分かっていなかったりしますよね。これは、“基準や拠り所の設定”ですよね。

 

 

▲木材の加工は木材の表面を電動カンナで削り、木材の側面や正面を平たくするところからスタートする。

 

 

 

ものづくりの面白さは、つくり方を考えていくこと

 

――今回、プロジェクトという形で商品を発表したのはなぜでしょうか。

フル佐藤さん プロジェクトという形にしたのは、展示会で終わらないための動き方にしようと思ったからなんです。それで名称のアイデア出しをしていて最後にプロジェクト名を「jig(治具)」にしました。治具は、僕たちにとって当たり前の道具。スツールは暮らしの中でも色んな補佐をするところが治具っぽい存在でもあるし、そういうところからもいいなと考えました。

ヨシタさん プロジェクト名を決めている途中に、治具そのものだけで展示会やりたいとか変なこと言っていたよね (笑) 。

フル佐藤さん はい、治具展。治具そのものの造形に魅力を感じていて、フェイスブックとかにいろんな治具の写真をひとりでアップしていた時期もあるんですよ。誰にもあんまり届かなかったけど (笑) 。

 

 

――他のお二人は治具についてどんなイメージを持っていらっしゃいますか。

ヨシタさん 製品のデザインは、製品そのものを使ってもらったり見てもらうために考える形だけれど、治具そのものってみせるために考えていないのになんだかかっこいいというのが魅力ですよね。

フル大野さん 人によって治具の作り方が全然違いますし、機械や環境によっても出来上がるものは異なります。単純なものから複雑なもの、治具はかなりの精度を持たせてつくらなくてはいけないものです。僕はある部分、面倒くさがりなので、つくる効率や手順をじっくり考えてしまいます。そのための治具をどうやってつくるか考えるという感じです。

ヨシタさん 出来上がった製品からは工夫の仕方が分からないけど、この治具つくったから上手くいったんだよね、と製品について知って欲しいところもあります。それは、きっとものづくりの面白さの部分なんですよね。

フル大野さん 次回の「jig」も木工分野でいくかという部分があるんですけど、今回、作り手として展示会に出た際、深い取り組みの説明ができるとものづくりを面白がってもらえるんだなという手ごたえがありました。僕は治具によって加工をする際に、いかに固定してものを安定させ、その先のモノを正確に作るかを考えています。そこがこの治具の重要性です。

 

未来への視野を持った、「育てていくプロダクト」

 

――最後に今後も続く「jig」の取り組みに対して、それぞれの想いを教えてください。

ヨシタさん 僕は作る人がいないと、何も世の中に出せないポジションだといつも思っています。そういう意味で彼らフルスイングはつくる人だから偉いなと、それから面白い立ち位置にいるなと感じていたんですね。デザインとつくることの両方やっている事例と言えば、ジャン・プルーヴェさんというフランスの建築家・デザイナーがいましたが、設計者であり工場経営をすることでプレハブ住宅の原形をつくったりしています。フルスイングの体制はひとつのチームでつくることとデザインを両立している。木工の世界には無垢の木を身につけた手の技術や知識で丁寧に手仕事をしていくかという職人型もいますが、フルスイングは製作の終盤あたりの加工を手で行いそれ以外は治具を使ってプロダクト的な部分があるのが特徴です。

フル佐藤さん 前にヨシタさんが、ヨシタさん自身の仕事のことを「育てていくプロダクト」と言っていて、僕はその言葉にとてもしっくりきたんですね。どういうことかというと、例えばプロトタイプを少量でつくる、売れないと次の段階にいけない。でも売れ始めると、たくさんつくっていくために、その後のつくる現場が変わったり、そのことで治具や作り方がちょっとずつ変わっていく。そういう風に生産性を高くしていき、育てていくことが大切だと話していました。うちの工場で作れる量は限られているので、今回のスツールもそうやって手が離れていくことを願っています

ヨシタさん そうやって製品をお嫁に出していくから、デザイナーは次の新しい取り組みにチャレンジしていけるんですよね。「jig」はそのためのプラットフォームのような役割を果たしていければと思います。

 

ー  治具についてのまとめ  ー

その1治具は材料を加工したり、組み上げる時に必要なもの。治具で支えたり固定したりすることで強度をもたせて正確に製作できる。
その2木工以外に金属など様々な素材を加工するプロダクトの現場で治具は存在する。治具の前に直板。材料自体が水平垂直でないとその先の精度は守れない。
その3.治具は量産する際にも精度を守り、再現性が高いものをつくることができる。作業スピードを高めるためには欠かせない存在。

 

 

jig 

ヨシタ手工業デザイン室の吉田守孝とフルスイングの佐藤界、大野雄二によるプロジェクト。「デザインや機能について、深い思考をもとに作られたものは、普段は意識しなくても、暮らしの質や心地よさが変わる」そんなものづくりの在り方を探っていこうとスタートし、その第一弾になるのが今回のスツールだ。製品の使い心地を実際に確かめられる合同展示「身につけることや使うこと」に出展。期間は2017年9月27日(水)から10月2日(月)まで東京・中目黒「工藝 器と道具 SML」にて。詳細はこちらをチェック https://www.facebook.com/jig.project/